
劇的幕切れを演出した阪神の森下翔太スーパービームの裏に虎“最強スカウト”の眼力
阪神が13日、甲子園でのヤクルト戦に2-1で競り勝ち連勝、貯金を今季最多の「19」として2位巨人とのゲーム差を9.5に広げた。先発の伊藤将司(29)が7回3安打無失点と好投、6回に4番の佐藤輝明(26)が決勝の24号2ランを放つ理想的な勝ちパターンだったが、劇的な幕切れを演じたのは、森下翔太(24)が9回に見せたスーパープレーだった。1点差に迫られなお一死二、三塁の大ピンチに増田珠(26)のライトフライでタッチアップを狙った代走の武岡龍世(24)をほぼ定位置からのバックホームでアウトにしたのだ。拙攻や守備のミスなどをすべて帳消しにする超美技。いよいよ阪神の勢いは止まらなくなってきた。
「フライがきたら絶対に刺してやろうとイメージはできていた」
劇的な幕切れに甲子園のボルテージは最高潮に達した。
2-0で迎えた9回だった。7回まで伊藤が3安打無失点、8回を石井が3人でピシャリと抑えてマウンドには守護神の岩崎。だが、先頭の赤羽にセンター前ヒットを許し、一死からオスナのショートへのゴロを前進してきた小幡が焦って弾いた。さらに山田に右中間へタイムリーツーベースを打たれて1点差につめよられ、なお一死二、三塁の一打逆転機を背負ってしまった。
内外野共に前進守備を敷き、バックホーム体制。ここで増田の打球はライトへ。下がった森下はほぼ定位置。三塁走者は代走で足のある武岡。タッチアップによる同点はやむなしと思われたが、森下は「フライが来たら絶対に刺してやろうとイメージはできていた」という。思い切り後ろから走り込んで勢いをつけたわけではない。1、2歩ステップを踏んだだけ。渾身のレーザービームはワンバウンドで坂本のミットにストライク送球。武岡はヘッドスライディングで生還を試みたが、待ち受ける坂本は冷静にタッチした。判定はアウト。岩崎が森下へ向かってグラブを掲げて雄叫びをあげ、佐藤は両手をあげて祝福した。高津監督はリクエストを求めたが、判定は覆らず、守りでヒーローとなった森下は歓喜のウォーターシャワーを浴びた。
「イメージ通り投げることができました。自分の指にもボールが噛んだ感触がありましたし、送球自体のラインもすごく合っていたので、リクエストがありましたけどアウトだろうと確信していました」
藤川監督も興奮していた。
「ウル虎の夏ですね。簡単にはいかないような気がしていたゲーム。でも本当にウル虎の夏みたいな形になった」
特別のユニホームでプレーする恒例の「ウル虎の夏」のキャッチフレーズを何度も繰り返した。そして「ポジショニング、各シフトと準備していたものが綺麗にいったし、森下もホームに投げたし、連係プレーが綺麗にいっているというのは準備もしっかりとできていたと思う」と続けた。
藤川監督は、前監督の岡田オーナー付顧問が徹底していた外野からの返球は原則カットのチーム内ルールを覆してキャンプからダイレクト送球のパターンを取り入れていた。
森下が言う。
「筒井(外野守備走塁)コーチとマンツーマンで毎日、守備練習もやってますし、守備走塁というのは、100%を目指してできるものだと思っているので、そこもぬかりなく引き続きやっていきたいなと思います」
守備と走塁はセンスに関係なく努力で一流になれるーとされている。守備に関してはセンスは重要なエッセンスではあるが、森下はとても大事な野球哲学をさらっと口にした。
2022年のドラフトで中央大から1位指名された森下の1年目の沖縄キャンプ。現在は日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎の球場長を務める当時のスカウトの責任者だった編成ディレクターの宮脇則昭氏に聞いた話を思い出した。
「森下はめちゃくちゃ肩が強いんですよ。いわゆる地肩ですね。ボールが伸びて来る。加えて足もある。まずプロで通用する守備力がないと、いくら打力があっても岡田監督には使ってもらえない。森下は守れるんです」