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岡山学芸館が東山に3-1で勝利して初の全国制覇を果たした。岡山県勢としても初だ(写真:西村尚己/アフロスポーツ)
岡山学芸館が東山に3-1で勝利して初の全国制覇を果たした。岡山県勢としても初だ(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

なぜJユース出身者もJ内定者もゼロの”無印集団”岡山学芸館が初の全国制覇を成し遂げたのか?

 決勝前のミーティング。選手たちの反骨心を煽るように、高原監督は岡山学芸館と東山の“違い”に言及した。ただ、一戦ごとに自信を膨らませ、勢いに変えてきた選手たちのモチベーションはすでにマックスの状態にあった。代表歴を含めた肩書きや卒業後の進路はあくまでもピッチ外のもの。自分たちのサッカーを貫けば勝てると誰もが信じて疑わなかった。
 通算3ゴールで福田らと並んで大会得点王になった今井が言う。
「応援してくれている3年生たちと会うたびにみんなの声がかすれていた。それだけでも本当にうるっときましたし、実際の試合でもつらいときや流れが悪いとき、自分のプレーがよくないときにはスタンドを見て、あいつらの本気の声出しに感謝していました」
 135人の部員だけでなく、岡山学芸館に関わってきたすべての人々の思いが結実した岡山県勢としての悲願の全国制覇。歓喜の輪はさまざまな広がりを見せていく。
 連覇への挑戦権を得た第102回大会へ。後半29分に放たれた阪田のヘディングシュートにとっさに反応して右手中指をかすらせ、バーに弾き返させた守護神・平塚仁(2年)は、最上級生になる自分が新チームの中心になって帰ってくると試合後に誓った。
「日本一の景色をもう一度見るために、自分が引っ張っていきたい」
 木村と今井は駒沢大へ、準決勝のヒーロー岡本温叶は中央大へ、ボランチの山田蒼は福岡大へ、そして井上は日体大へ進学。日本一の肩書きを背負い、次のステージでさらに心技体を磨きながら、大学を経由して4年後にJリーガーになる夢を追い求めていく。
 そして、県内の優秀な中学生たちが県外の強豪校へ進んできたこれまでの流れにも影響を与えるだろう。岡本や今井と「岡山学芸館を日本一にしよう」と誓い合い、倉敷市のハジャスFCからそろって門を叩いた井上が優勝の価値に声を弾ませた。
「ずっと育ってきた岡山の歴史を変えられた。自分たちの試合で元気や感動を伝えられたら本当に嬉しい。岡山のサッカーがもっともっと強くなってくれたら」
 開幕前は無印だったチームが一気呵成に頂点へと駆け上がる。岡山学芸館が紡いだドラマは大団円ともに、痛快無比な軌跡と熱戦の余韻を続編への期待に変えながらひとまず幕を閉じた。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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