• HOME
  • 記事
  • 競馬
  • 「もはや“神騎乗”!」なぜ54歳の武豊とドウデュースのコンビは有馬記念で劇的復活勝利を手にすることができたのか?
有馬記念を勝ったのは54歳の武豊が騎乗したドウデュースだった
有馬記念を勝ったのは54歳の武豊が騎乗したドウデュースだった

「もはや“神騎乗”!」なぜ54歳の武豊とドウデュースのコンビは有馬記念で劇的復活勝利を手にすることができたのか?

「ダービーの後、苦しい思いをしましたが、この馬はこんなもんじゃないと思っていました」
 人も馬も苦境に立たされ、もがき苦しんでいた。この秋は天皇賞・秋→ジャパンカップ→有馬記念と3走する復活キャンペーンを張っていたが、あろうことか、その初戦となる10月29日の天皇賞・秋の当日、5レース直後に下馬した際、騎乗馬に蹴られて武豊は、戦線離脱を余儀なくされた。
 診断結果は右太もも筋挫傷。もし太ももではなく、膝だったら再起不能になっていたかもというほどの重傷だった。内出血は1カ月以上続き、たまった血を3回抜いたという。天皇賞・秋で、急きょ、乗り代わった戸崎圭太とのコンビでドウデュースは7着、続く11月26日のジャパンカップも、武豊は乗ることは叶わず、馬は4着に敗れ、ライバルだったイクイノックスの引き立て役に回っていた。
 しかし武豊もドウデュースもあきらめなかった。
「彼の存在は心の支えだった。有馬記念は国民的行事。何とか乗りたいと思っていた」
 武豊は有馬記念でのコンビ復活を心のよりどころに懸命のリハビリを重ねて12月16日にレース復帰。1週前の追い切りにようやく騎乗した。
 来年の3月で55歳になる。
 騎手に定年はない。地方競馬では”鉄人”的場文男騎手が67歳で頑張っているものの、中央では岡部幸雄さんが56歳、アンカツこと安藤勝巳さんが52歳で引退している。しかし、武豊は、衰えるどころか、今なお進化している。
 2010年の毎日杯での落馬後に専属トレーナーのもとで“肉体改造”に着手した。筋肉は何歳になってもトレーニングさえ積めば維持されるとされる。問題は、加齢と共に衰える、反射神経、敏捷性、柔軟性の部分。現在、取り組んでいるトレーニングは、その部分の強化に焦点を置いたもの。元阪神でメジャーリーガーの藤浪晋太郎に、そのトレーニング方法を伝授したほどだ。
 復活の最年長GⅠ勝利記録を達成した背景には、いまなお衰えぬ向上心、そしてそれ以上の競馬愛がある。
「だって、オレは武豊やで」
 第一人者としての強烈な自負と使命感もある。
 今年もブランクがありながら74勝を挙げ、トップ10入り。そのうちGⅠはこれで2勝目だ。通算4466勝は、前人未到の歴代トップ。このペースなら5000勝到達も夢ではないのかもしれない。
 勝ったドウデュースは5歳となる来季も現役を続行する。父ハーツクライが4歳暮れの有馬記念でGⅠ初制覇し、5歳でドバイシーマクラシック勝ち、イギリスのキングジョージで3着と海外で飛躍していることからさらなる成長が期待できる。
 日本ダービーを3勝している友道康夫調教師にとっても有馬記念は初制覇。「ホッとしたのと、さすが武豊」と笑みを浮かべると「また来年、忘れたものを獲りにいこうという話をした」と陣営の思いを明かした。
 武豊もJRAから公開されたジョッキーカメラの映像で「すごいわ、この馬。よく我慢した。ありがとうな、ほんま」と喜びを伝え「もう1回行こう。フランス行こう」と言葉を弾ませている。
 悲願は凱旋門賞の制覇だ。3歳で挑んだ昨年は大雨にたたられ、なにもできないまま19着。その後、歯車がかみ合わない原因ともなっていた。しかし名コンビが輝きを取り戻したとあれば、栄光に向け、道なき道を突き進むだけだ。

 

関連記事一覧