
伝統の一戦で無死満塁を脱した巨人・田中瑛斗の“バット粉砕シュート”はなぜわかっていても打てないのか
巨人が22日、阪神との延長11回にもつれる激闘を3-2で制して今季対阪神とのカードで初めて勝ち越した。勝利を引き寄せたのは8回無死満塁のピンチに登場した田中瑛斗(25)が9球連続で“バット粉砕”シュートを投げ込んで無失点に切り抜けた投球だった。一方の阪神は、桐敷拓馬(25)の戦線離脱が響き、ブルペンの駒が一枚足りなくなり、前日に変化球が制球できていなかった新外国人のニック・ネルソン(29)を11回のマウンドに送ったが、門脇誠(24)に決勝のタイムリー三塁打を許した。阪神と巨人の今季対戦成績は阪神の8勝4敗となった。
魂の9球連続シュート
伝統の一戦の明暗を分けたのは田中瑛の“魂の9球連続シュート”だった。
2-2で迎えた8回。阿部監督は、左腕の石川を送るものの代打ヘルナンデスにレフト前ヒットを許し、続く近本を四球で歩かせた。無死一、二塁で中野の三塁側へのバントを処理した石川は三塁封殺を狙ったが痛恨のフィルダースチョイスとなった。無死満塁。ここで“Gキラー”でリーグトップ7つの勝利打点をマークしている森下を迎えて阿部監督は“切り札”の田中瑛を投入した。前日のゲームでも7回に1点差に詰め寄られ、なお二死一塁の場面で中川から田中瑛にスイッチして、森下を自慢のシュートでショートゴロに打ち取っていた。
田中瑛―甲斐のバッテリーに迷いはなかった。
内野はもちろん前進守備。田中はシュートを初球から投じた。森下も当然その球を狙っていた。だが、フェアグランド内には飛ばない。三塁側へのファウルとなり、3球目のインコースギリギリのシュートでは、森下のバットが真っ二つに折れた。追い込んださらにインコースへシュート。今度は前に飛ばず、自打球が森下の左膝の内側付近に当たり、虎の若き3番打者は膝を押さえてバッターボックス内に倒れて悶絶した。ベンチ裏に下がることなくそのまま打席に立ち続け、甲子園の大拍手に後押しされたが、田中はインコースへのシュート攻めを止めなかった。
5球目はライナーで三塁側へのファウル。そして運命の6球目もシュートだった。それもインコースのギリギリへ。詰まった打球は三塁の門脇の正面へ。5-2-3と転送されてダブルプレーが成立した。
さらに二死二、三塁とピンチが続くが、シュートが通用しにくい左打者の佐藤は申告敬遠して、2回に山崎から逆転の2号2ランを放っている大山との勝負に出た。田中は、またしてもシュート攻め。2球で追い込み、カウント0-2から、ここで外へのスライダー。10球目にして初めて投じた裏をかくスライダーで、大山のバットに空を切らせてマウンド上で吠えた。
スポーツ各紙の報道によると、阿部監督は、試合後「もう素晴らしいの一言。相手からしたら脅威だと思う。ああいう素晴らしいボールがあるのであそこで出している。よく頑張ってくれた。精神的な強さを買って、ああいうポジションを任せている」と、田中の“魂の9球連続シュート”を称賛した。
現役時代にタイトル獲得経験のある評論家の一人は、「田中のシュートは、いわゆる特殊球だが、内側に横に動いて食い込んでくるものとシンカーのように落ちるものの2種類がある。それも150キロ前後の球威がある。森下の自打球や大山が空振りした2球目は落ちるシュート。だから続けられても対応できない」と分析した。
「しかも打席とホームベースの間のストライクゾーンギリギリのラインに正確に投げ込んでくる。ひとつ間違えば、死球になる怖さがあるが、相当、強いメンタルがあるのだろう。こういうピッチャーを日ハムはよく現役ドラフトにリストアップしたと思う。そこを攻められると、打ってもファウル。フェアグランドに入れようとするとショート、三塁ゴロになる。どうしようもない」