
相次ぐリング事故…なぜ悲劇は繰り返されたのか…「天国に旅立ちました」兄が2日に緊急開頭手術の神足茂利さんの死去を報告…28歳だった
日本のプロボクシング界ではリング事故が相次いでおり、2023年12月26日に「バンタム級モンスタートーナメント」決勝で現在WBA世界バンタム級休養王者で、当時日本同級王者の堤聖也(角海老宝石)に挑んだ穴口一輝さんが、4度ダウンする激闘をフルラウンド戦い抜いたが、試合後に意識を失い、緊急開頭手術を行い、翌年2月2日に23歳で亡くなっている。
この事故を教訓に、日本のプロボクシングを統括、管理しているJBCは日本プロボクシング協会と共に専門家を招いての医事講習会を東西で開いた。水抜き減量との因果関係も考えられるため、協会は、日本タイトル戦と同挑戦者決定戦に限り、30日前(規定体重の12%増以内)、2週間前(7%増以内)の事前計量を取り入れるなど、再発防止策を練ってきた。だが、悲劇は繰り返された。
神足さんと同じ興行の第4試合、日本ライト級挑戦者決定戦で8回TKO負けした浦川大将(28、帝拳)も、リング上で意識を失い、担架が運ばれ、一度、医務室で意識を取り戻したが、病院に救急搬送中に意識がなくなり、同じく「急性硬膜下血腫」で緊急開頭手術を行った。現在も意識が戻らず経過観察中だ。
また5月にはIBF世界ミニマム級タイトルマッチで、重岡銀次朗(25、ワタナベ)が救急搬送され、開頭手術を受けた。ICUから一般病棟に移り、故郷、熊本のリハビリ病院への転院が検討されるまでに回復はしたが、未だ意識は戻らない状況。
神足さんの試合ではダウンシーンも明らかなダメージで動きが止まる場面も見られなかった。消耗はしていたが10回には「来い!」と意思表示をしていたし、11回にはコーナーに戻る際に応援団に向かって胸を叩くポーズも見せていた。
ただ兄は救急車両がホールに到着したのが、要請から約40分後で「JBCのドクターの対応は必死に救命しようとしている人の対応ではなかったように思えます。もう少し早く病院へいけたらもっと何かが変わったかもしれないと思うと、悔しさで怒りがこみあげます」と問題提起していた。
JBCによると救急車両の手配は規則でホールを通じて行わねばならないことになっていて、また後楽園での医務室での医療行為も禁じられているという。
また10回に神足さんはバッティングによる負傷を眉間に負い、2度のドクターチェックが入ったが、兄は「あそこで負傷ストップしなかった理由が僕には理解できません。勝敗なんてどうでもいいんです。安全面をもっと重点化して欲しいからです」と不満を漏らしていた。
ドクターがチェックした際の傷の深さや、11回以降、出血が止まっていたことを考えると10回でのストップは難しかったのかもしれないが、これも改めて検証すべき点だろう。
JBCは、これらの事態を重く見て、原因究明、再発防止に向けての緊急対策プロジェクトを立ち上げることを決めた。上部団体の了承を得て、地域タイトルを12回戦から10回戦に短縮することを決定。さっそく12日に後楽園で行われるWBOアジアパシフィックスーパーフライ級タイトルマッチと、19日の同場所でのOPBF東洋太平洋同級タイトルマッチを予定されていた12回戦から10回戦へ変更した。安河内剛本部事務局長は「原因を究明し、打てる手はすべて打ちたい」と明言している。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)