
「君は殺気を帯びた表情をしている」なぜ佐々木朗希はリリーフで復活できたのか…9月4、5、6日のアリゾナ施設での再生プロジェクトとロバーツ監督の言葉…米ESPNが真相を詳細報道
ヒル氏は「アキュゼーション・オーディット(疑念点の整理)」と呼ばれる問答も行った。「佐々木が抱くかもしれない懐疑心を理解し、それに正面から向き合う行為」で、フォーム改造を無理に押し付けることなどはせず、いくつかの提案を行い、佐々木が納得した上で、フォーム改造に着手することを伝えた。
翌9月5日にヒル氏は「バフェット」と呼ばれる複数の改善策を提案した。スピードが出ない理由は、骨盤が前に傾きすぎていたことに起因していてそれが早すぎる体の回転を生んでいた。痛めた右肩が原因でフォームが崩れていたという。そのフォームの乱れが、本来、佐々木が持つ速球の球速を約7マイル(約11.3 キロ)も減速させていた。
そこでヒル氏が提案したのは軸足(右足)の膝の使い方。右足の膝をつま先の真上に置くように曲げることで彼の抱えていた問題を解消できると考えた。それで骨盤が前に傾きすぎるのを防ぎ、体の重心が早く前に流れるのを抑えることができる。結果、体の回転を遅らせ前足が地面にしっかりついて体を安定させる時間を確保できる。
3時間の議論ののち、佐々木はその改造に着手することを決断した。特に佐々木には「Up(上)、 down(下)、out(外)」の新フォームを意識づけする言葉が響いたという。
通常ドジャースは、ピッチャーにまずブルペンで投げ込ませてから修正を試すがポストシーズンでチームの戦力になるだめには時間の余裕がなかった。チームドクターであるニール・エラトロッシュ医師のリハビリメニューで肩に痛みもなく、ぶっつけ本番でそのフォーム改造を試すしかなかった。
「できると思います」。佐々木はそう言ったという。
翌9月6日に佐々木は、ブルペンで新フォームを試すと、球速は95〜97マイル(約153〜156 キロ)を計測し、ヒル氏とウォルシュ氏は驚いた。佐々木自身が春先に「ブルペンではゲームより4〜5マイル(約6〜8 キロ)遅くなる」と言っていたからだ。
その3日後、佐々木は3Aで先発し、平均球速は98.3マイル(約158 キロ)、最速は100.6マイル(約162 キロ)をマーク、スプリッターも絶妙で、春季トレで教わったカッターも投げてヒル氏を喜ばせた。ただその後、再生計画が変更された。ブルペンが崩壊したため、佐々木に「今季重要な試合で投げたいならブルペンが明確な道だ」と伝えた。
ロバーツ監督は、「先発陣の状況を見て、彼は『やります』と言った。あとは我々の仕事次第だった」と振り返っている。
佐々木はマイナーでのリリーフテストで結果を残して、9月24日にメジャーに緊急昇格し、いきなり“3人斬り”デビューである。
ロバーツ監督は、佐々木にこう声をかけたという。
「戻ってきたときに彼に言ったんだ。今は違った表情をしている。殺気を帯びた表情をしている、と」
その日、佐々木は「スピードも出ていました。コントロールも良かった。協力してもらった、たくさんのコーチ、スタッフに感謝したい」との感謝の言葉を残していた。