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  • なぜ長期休養を発表した武尊は「(天心との再戦は)100%ないと断言したくない」と発言したのか…総合格闘技とボクシングに舞台を変えて永遠に続くライバル関係
天心との世紀の一戦から8日後に武尊が緊急会見。時折涙ぐみながら長期休養と格闘家として新たな挑戦の考えがあることを明かした
天心との世紀の一戦から8日後に武尊が緊急会見。時折涙ぐみながら長期休養と格闘家として新たな挑戦の考えがあることを明かした

なぜ長期休養を発表した武尊は「(天心との再戦は)100%ないと断言したくない」と発言したのか…総合格闘技とボクシングに舞台を変えて永遠に続くライバル関係

 

格闘技の祭典「THE MATCH 2022」(19日・東京ドーム)で那須川天心(23)に0-5判定で敗れたK-1王者の武尊(30)が27日、都内のホテルで緊急記者会見を開き、腰の分離すべり症や、ヒザの靭帯損傷だけでなく、パニック障害、うつ病の診断を受けていたことを明かした上で長期休養に入ることを発表した。心身共に最高の状態を取り戻した上で復活して新しい挑戦を行いたいという。具体的には語らなかったが、総合格闘技の世界最高峰「UFC」での戦いを目標とする総合格闘家への転向だと見られる。それぞれが戦う舞台を変え、ボクシングに転向する天心とのライバル関係が永遠に続くことになる。

パニック障害、うつ病の診断を受けていたことを告白

 あの戦いから8日が経過した。試合後には質疑応答に応じることができなかった武尊は「1日、1、2時間しか眠れない」ほど引退か現役続行かで揺れ続けた思いをやっと整理して会見の場に座った。友人、知人、関係者の激励や、なによりインスタに1万件以上のコメントがついたファンの声が後押しになったという。

 会見は約22分間に及ぶ独白からスタートした。

「花道でもらった『ありがとう』という言葉が、今まで10年勝ち続けてきたどんな『おめでとう』よりもうれしくて…僕の中の大切な財産としてこれからも生きていきたいなと思った」

 そう語ったあたりから言葉に詰まり何度も涙ぐんだ。  

 武尊は、「公表することを思い悩んだ」とした上で、その肉体だけでなく、心までボロボロの満身創痍の状態にあったことを告白した。

 拳は数年前に手術したが「腱と骨がずっと外れている」状態だった。試合で使われた6オンスのグローブはさぞ辛かっただろう。

 腰は分離すべり症で下半身の痺れや横にもなれないほどの痛みに苦しんだ。膝は側副靭帯、前十字靭帯の損傷で、天心戦の2週間前には、歩けなくなり、一切右の蹴りが出せない状況に追い込まれた。武尊は天心戦でダメージを負う蹴りを受けたわけでもないのに、試合後に足を引きずり関係者の支えを借りて会見場に現れていた。ストイックにトレーニングを続け、被弾覚悟のファイトスタイル。長年のツケが肉体を蝕んでいた。ただ気力だけで天心と向かい合っていたのだ。

 そして、その気力さえ傷つき自分でコントロールできない状況に陥っていた。数年前から精神科へ通い、パニック障害、うつ病の診断を受けていたことを明かしたのだ。テニスの大坂なおみなど、トップアスリートのメンタルヘルスの問題は、近年のスポーツ界で問題となっている。極度のプレッシャーや緊張状態が原因とされている。

 武尊も「負けることが怖くて、この10年、恐怖と戦ってきた。試合は楽しめたが、それ以外は苦しさと恐怖しかなかった」と語ったが、そういう精神的な戦いに打ち勝ってきたがゆえに知らず知らずのうちに彼の心は痛めつけられていたのである。「(天心戦前に)夜中に病院に運ばれたこともあった」という。

 具体的に何が起きたかは明かさなかったが、おそらく限界まで追い込んだ減量にメンタルの問題が重なり倒れてしまったのだろう。

 プロボクシングの世界バンタム級の3団体統一王者の井上尚弥(大橋)がそうだが、超一流ほど、怪我やアクシデントを隠そうとする。言い訳はしない。一種の美学だ。

 だから、武尊は天心戦で、あえてジャブを打たせた理由や減量の影響などを質問されたが、「悔いはない。内容を(会見で)あまり振り返ることはやめようと思っている。あれは僕の100%」と、何ひとつ言い訳はしなかった。

 それでも、あえて怪我やメンタルヘルスの問題を抱えていたことを公表した理由は、「同じ怪我とか病気で苦しんでいる人がたくさんいる。僕が病気、怪我を克服して復活をしている姿を見せるのが、まず一個目の戦い。その戦いに勝って元気な姿を見せられるように必ず復活したい」という思いからである。

 引退か現役続行か。揺れ動いた武尊が出した結論が長期休養だった。

 「前向きな意味で1回休養をさせていただこうと」

 K-1スーパーフェザー級のベルトも「次の世代へバトンタッチしたい」と返上した。 「期限はわからない」とする長期休養の先は「新たなチャレンジができたら」という現役続行である。

 

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