「三振狙い」オリックス中嶋采配がズバリ…なぜ育成出身“ブルペン四天王”の宇田川優希はピンチに連続三振を奪えたのか?
しかも宇田川は6回も回跨ぎ。先頭の村上は四球で歩かせ、続くオスナの打席ではフォークがワンバウンドとなり、二塁に進まれ、二塁ゴロの間に三進を許した。続く青木に四球を与えて代走の丸山に盗塁も許し、また一死二、三塁のピンチを作ってしまった。だが、ここでもサンタナをフォークで三振。“クセモノ”の中村は、フォークで追い込んでから、153キロのストレートで三球三振。ピンチはすべて三振でヤクルトに流れを渡さなかった。
宇田川は仙台大から2020年の育成ドラフト3位で入団して2年目。1年目はファームで1試合しか登板がなかったが、昨秋のフェニックスリーグから徐々に頭角を現し、今年7月28日に支配下登録され、山崎颯、ワゲスパック、阿部と共に“ブルペン四天王”の1人として起用された。9月8日に初勝利をつかむなど、19試合で防御率0.81の結果を残して逆転優勝の原動力となった。
埼玉・八潮南高時代は、体が大きかったことから一塁手でスタートしたが、内野手のクセのある送球を満足に捕球できず“野手失格”の烙印を押されて投手に転向。3年には140キロ台を出せるようになり注目を集め、仙台大に進んでから本格的にウエイトトレーニングに取り組んだことで、球速は最速152キロまでアップした。当時、大学の先輩に阪神にドラフト1位指名された馬場がいて、フォークの握りを直伝され、プロでブレイクするきっかけとなる“宝刀”を覚えた。ドラフト候補として各球団がマークしたが、まだ制球に不安があり、ロッテ2軍との交流戦で結果を残せなかったことなどから、即戦力ではなく素材型としての評価に留まり、楽天の早川、広島の栗林、日ハムの伊藤ら、投手の当たり年のドラフトだったことも手伝って、支配下では指名されなかった。
宇田川は、ドラフト前には「育成なら社会人」と各球団の調査書に返答していた。育成指名に戸惑ったが、オリックスとは、前年にも仙台大から育成ドラフト7位でで佐藤優悟外野手が入団していたというつながりがあり、チームメイトの佐野如一外野手も育成ドラフト5位で指名されたため、一転、プロ入りを決意。2年でここまで這い上がってきた。そして負ければ、ヤクルトに王手という崖っぷちのゲームで勝利投手になったのである。
宇田川からバトンを受けた山崎颯も7、8回の2イニングを6人でピシャリと抑えた。
「宇田川がいいピッチングをしたので自分も負けないピッチングしようと(マウンドに)上がりました」
1歳違いの宇田川とは、互いに刺激し合う良きライバルである。8回一死からの村上との対決は圧巻だった。
「けっこう見切られていた。変化球とかも。真っすぐしかないと思い投げました」
7球中フォークは1球だけで後はすべてストレート勝負。フルカウントから外角高めへ投じたストレートは159キロを計測。明らかに球威に押された村上は、その打球を悔しそうに見上げ、守備位置を下げていたレフトの吉田正は、ほぼその位置を動かずにキャッチした。
そして最後はワゲスパック。3回の杉本のレフト前タイムリーで奪った1点を守りきって執念の完封リレーである。