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井上拓真は兄の4団体統一戦のアンダーカードでジェイク・ボルネアに8回TKO勝利。その後世界戦へ向けWBOアジアパシフィック王座を返上した(写真・山口裕朗)
井上拓真は兄の4団体統一戦のアンダーカードでジェイク・ボルネアに8回TKO勝利。その後世界戦へ向けWBOアジアパシフィック王座を返上した(写真・山口裕朗)

井上拓真は兄が統一したバンタム級の世界ベルトを継承できるのか…前哨戦で示したモンスター化「パンチが当たらない」の尚弥証言

 これまで父の真吾トレーナーは、「尚に比べて考え方、取り組み方が、やはり甘い」と苦言を呈してきたが、今回は成長を認めた。
「(練習へ取り組む)意識が高くなってきた。成長していると思うし、周りの意見もそう。やってきたことは間違っていない。いつでも世界へ行ける準備を進めるだけ」
 拓真の何がどう進化したのか。
 元WBA世界スーパーフライ級王者の飯田覚士氏は「バンタム級に戻すことを意識しているのか、よりスピードが磨かれたし、兄の尚弥選手の動きに似てきた」と分析した。
「頭の振り方や、タイミング、バランス。そして何より距離を作るためのバックステップの速さと、その距離感が非常に兄の尚弥選手に似てきた。特に序盤の展開で見せたバックステップは世界レベルにあると思う」
 飯田氏は拓真のモンスター化を感じ取った。
 一方で拓真が、「兄のようには倒せなかった」原因をこう指摘した。
「ステップインの際に若干、腰高になるのでパンチに体重が十分に乗らない。兄の尚弥選手は、しっかりとした腰の位置からパンチを放つので、あれだけのKOが生まれている。元々はパンチ力がある選手。ステップイン時の腰の位置を修正すれば、面白いように倒すことができるのかも」

 拓真のモンスター化の理由に兄弟スパーリングの解禁がある。
 これまでは真吾トレーナーが、「感情的に喧嘩のようなスパーをしても意味がない」と兄弟スパーを禁止していた。だが、今回は、何度か拳を交え、試合の1週間前にも、マスのつもりが、ほとんどガチのスパーになったという8ラウンドを消化している。
 解禁の理由は2つある。
 一つは9月に兄と共に約10日間行った米ロス合宿だ。通った名門ワイルドカードジムは、連日、張り詰めたような緊張感が漂った。パウンド・フォー・パウンドの3団体統一王者の実力を見定め、「食ってやろう」という完全アウエーの空気の中でスパーが実施された。当然、その弟の拓真にも、目の色を変えて真剣勝負を挑んでくる。
「常にピリついた雰囲気の中でいい練習ができた」と拓真。
 帰国時に真吾トレーナーは、「この緊張感を日本に帰っても続けようね」と2人に言い聞かせた。失いかけていたスパーの緊迫感と極限の集中力を取り戻したロス合宿の成果を継続するためにも兄弟スパーが解禁されたのである。そして真吾トレーナーは、「2人が大人になった。技術戦ができるようになったこと」を2つ目の理由にあげる。拓真の技術的進歩が兄弟スパーを可能にしたのだ。
「お互いにいい意味で刺激になってよかった」
 尚弥は、真吾トレーナーに「拓真にパンチが当たらない」と、拓真のディフェンス能力の向上を伝えたという。飯田氏が指摘したバックステップの進化だろう。
 大橋会長は、ロス合宿を終えた尚弥を「1.5倍強くなった」と表現したが、拓真は「僕は1.7倍強くなった」と豪語した。その言葉は誇大宣伝ではなかった。

 

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