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8ラウンドにフルトンを倒した井上尚弥が吼えた(写真・山口裕朗)
8ラウンドにフルトンを倒した井上尚弥が吼えた(写真・山口裕朗)

なぜ井上尚弥は戦慄TKOで“最強”フルトンに勝てたのか…頭脳戦で仕掛けた巧妙な“罠”と「必ず当たる」秘策とL字ガード

 鋭いステップインが理由だった。真吾トレーナーは、「階級を上げても尚弥の身体能力が高かったということ。だから言ったでしょう。“フルトンに劣っているところが何もない”と」と説明した。
 元3階級制覇王者の八重樫東氏が指導した通称「ヤエトレ」でスーパーバンタム級にふさわしい肉体を手にした。加えて1.8キロの増加で、過酷な減量から解放され、コンディションが明らかによくなった。4団体を統一した昨年12月のポール・バトラー戦(英国)では減量の影響から1ラウンドで足がつってしまっていた。
「当日の体重は60.1キロ。バンタム級のときと、さほど変わらないが、スピードだったり、体重の乗りだったり、ステップワークしているときの安定感がまったく違った」
 これが今回の回想。
 そして井上は細かな駆け引きをしていた。
「プレスをかけすぎると(フルトンが)足を使っちゃう。出足を止めペースは渡さないが、圧をかけすぎず、ジャブの差し合いで戦い、そこで勝ちたかった」
 足を使って逃げられないようにあえて圧のかけ方を加減して誘いをかけたのだ。
 2ラウンドにはフックを続けて空振りさせた後に、グローブで自分の左ホオ付近をポンポンと叩く余裕のポーズで挑発もした。
 4ラウンドからは、上半身でリズムを取り始め、5ラウンドからは、明らかにペースダウン。フルトンの前進を許した。そのラウンドはジャッジの一人がフルトンにつけ、7ラウンドには、この試合で初めてといっていい右フックをもろに被弾して3者がフルトンを支持した。スタミナ切れのサイン?とも思ったが、筆者も、そしてフルトンも騙されていた。
「あえて自分でペースを落とした。1、2、3、4(ラウンド)は飛ばす気持ちでやって、ペースとポイントを譲らずに戦えば、そこからフルトンが出てくる。出てこなければならない展開を作った」というのである。
 ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)に判定勝利したライト級の4団体統一王者のデビン・ヘイニー(米国)は、試合途中に「スクーター(フルトン)は彼の武器を使わず井上を不利に導こうとしていない。彼の前に居続けている」とツイートした。
 フルトンは井上の“罠”にはまって足を使えずに一方的にポイントを失っていった。
「判定でいいから勝つことが大事。判定でもというのが頭にあった」
 そして井上が張った“罠”にフルトンが堕ちることになる。
 それが8ラウンドの戦慄のフィニッシュ。
「フルトンのペースが落ちてきて、こっちも距離感に慣れてきた。やはり倒したいし、そろそろプレスをかけていこうというところで一瞬の隙をついた」
 試合前にフルトンが「賢く戦う」と宣言。井上は「それ以上に賢く戦う」と反撃した。まさに緊迫の頭脳戦を井上が最高の形で制したことになる。

 

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