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8ラウンドにフルトンを倒した井上尚弥が吼えた(写真・山口裕朗)
8ラウンドにフルトンを倒した井上尚弥が吼えた(写真・山口裕朗)

なぜ井上尚弥は戦慄TKOで“最強”フルトンに勝てたのか…頭脳戦で仕掛けた巧妙な“罠”と「必ず当たる」秘策とL字ガード

 当初、5月7日にこの試合はセットされていた。会見は3月6日。その3日後のスパーリングで思い切り左フックをぶっぱなした瞬間に左拳を痛めた。バンテージもしっかりと巻いていた。スパーリングでも全戦全勝が井上家のモットー。スーパーバンタム級に上げてパワーもスピードもレベルアップしたがゆえの悲劇だった。右拳にはかつて手術した古傷があるが、今度は左拳。骨に異常はなかったが、痛めた経験があるだけに井上も、完治にどれくらいの時間がかかるかの自己判断はできる。
 残された時間は2か月。それでも井上は、当初、試合を強行しようとした。フェザー級でのブランドン・フィゲロア(米国)との再戦が決まりかけていたフルトン戦を実現させた交渉の苦労も、会場を押さえ、まだ販売はされていなかったが、チケット応募が殺到している事情などを知っている。責任感から胸が痛んだ。だが、大橋会長と真吾トレーナーがストップをかけた。フルトン陣営が延期を了承してくれたことも大きかったが、未知のスーパーバンタム級初戦で、“最強”のフルトンが相手では、すべてが万全でなければ勝てない相手だと考えていたのである。だから、リング上で井上は、最初に延期を了承してくれたフルトンとジム関係者への謝辞を述べたのである。

 敗者のフルトンは気丈に記者会見に出席した。
 顔に目立った傷はなかった。絶妙のディフェンステクニックで8ラウンドに左のボディジャブに幻惑されるまでミスを犯さず井上のパンチの芯は外していた。
「残念な結果になったが悪い気分にはなっていない。井上は素晴らしいファイター。強い選手。彼が勝つべき日だった」
――なぜ悪い気分ではないのか? 最強の挑戦者から逃げなかった元2王者のプライドが顔をのぞかせた。
「相手のテリトリーに来て試合をしたんだ。そこで勝っても負けても心の中で、チャンピオンであり続けようと思っていた。彼を征服できず試合に勝てなかったが、オレも成人した大人だ。たくさんの人達に頭を抱えているような姿を見せたくない。ガッカリはしているけど気分は悪くはない」
 そしてダウンシーンについて「(井上の)パワーというよりはタイミングだった」と説明し「彼は強かったが、サプライズという点はなかった」と強がった。今回のフルトンのファイトマネーは4億円から5億円だと言われている。このクラスでは破格の金額。通常、負ける可能性がある試合には再戦条項をつけるものだが、フルトンはそれもつけなかった。ビッグマネーを手にした代償はあまりにも大きかった。

 

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