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慶応が107年ぶりの夏の甲子園V(写真・日刊スポーツ/アフロ)
慶応が107年ぶりの夏の甲子園V(写真・日刊スポーツ/アフロ)

なぜ慶応は常識を覆す「エンジョイベースボール」で107年ぶりの日本一を手にできたのか…「プレッシャーなき自己表現&目標追及の力」

「私たちの時代は失敗したら監督に怒られる、下手をすれば殴られる、先輩に説教を食らう、というプレッシャーがあった。打てなければ怒られるというネガティブなプレッシャーだ。だが、自由な風土でエンジョイベースボールを掲げる慶応の選手たちには、失敗したら、どうしようというプレッシャーはなかったと思う。それよりも自分たちの目標を達成したい、自己を高めたい、センバツでタイブレークで負けた仙台育英に勝ってやりかえしたいという気持ちが上回った。その象徴が5回二死から5点を奪った集中打だったと思う。そういう失敗を恐れないチームには、打者に打席での積極性が生まれ、連打につながる。勢いを生む原動と言っていい」
 慶応は下級生が上級生を「君づけ」で呼び、従来の体育会系野球部にあるような厳しい上下関係はない。
 部訓には「グランドでは上級生、下級生は対等。しかし下級生は上級生に敬意を払い、上級生は下級生に色々と教え、叱り、同時に模範となる練習態度、学業態度を示せ」とある。慶応幼稚舎の教諭が本業の森林監督も、選手の自主性を重んじており、圧力をかけることはなく、当然、暴力的な指導も排除されている。
 部の心得として「練習においての行動」が明文化されており、そこには 「自分の納得の行かない事や疑問に思うことがあったら、遠慮せずに監督・コーチにどんどん質問すること。自分の野球であり、自分たちチームであることを忘れず、また大人に対しても自分の考えを堂々と述べられるようになって欲しい」とまで明記されている。
 勝利至上主義の旧態依然とした体育会系型のチームとは対照的な自主性を重んじるチームマネジメントだ。論理的に野球を科学し、試合ではデータを活用、フィジカル強化も含めた最新のトレーニング、イメージトレーニングなどを駆使して合理的に量より質を突き詰める。かといって、5分前集合を徹底し、練習中のユニホームの着こなしや、遠征時の服装、礼儀作法などにも厳しく、自己を律する精神も持ち合わせている。だが、その新しい時代の慶応野球も、結果がついてこなければ、それが正しいことの証明にはならない。
 大村が目を輝かせて言う。
「本当に野球の楽しさを自分たちのプレーとか今日の試合とか見て、少しでも野球っていいな、野球って楽しいなと言う風に日本中の高校野球ファンの方たちが思ってくれたら自分たちの望みはそれで叶うので良かったなあと思います」
 日本一となった慶応は、高校野球界に確かに新しい時代の風を吹かせた。

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