
なぜ36歳の井岡一翔はダウンを奪い、試合後にインタビュー打ち切りの寒気を与えた王者にリベンジを果たせなかったのか…「引退する気持ちはない」現役続行を宣言した理由とは?
7、8ラウンドはマルティネスが明らかに休んだ。だが、その2ラウンドでさえ、井岡を支持したジャッジは1人だけ。明確にポイントを取らねばならないところで取れなかった。
「向き合って客観的に疲れている、休んでいるながわかる。でも目を見るとカウンターを狙っている。怖さもあった。ディフェンスだけをするときは、来るパンチを待つだけなので、ディフェンスがしやすい。こちらは、ミスブローをしたくない。あいまいな気持ちがあった。もっとジャブで崩したかったが、駆け引きも考えながらやってズルズルといっちゃった」
過去3度の再戦で一度も負けていない頭脳派の井岡だからこそ、熱くなった一方で考え過ぎてもいたのだ。
そして最大の「たられば」を言えばダウンを奪った10回の大チャンスで仕留め切れなかったことだ。王者は「ダウンの影響はあまりなかった」と強がったものの「襲撃されたようなパンチで初めてのダウン。足はしびれてしまった」とも振り返った。しかも残り1分以上残っていた。
「それまでの展開で体力を結構使っていた。一進一退の攻防で倒したいという気持ちが先行した。効率よくコンビネーションを出せなくとも2発、3発出せれば良かったが、目の前のことでいっぱいいっばいの気持ちが先行して一発(狙い)だけになってしまった」
大振りになったことを井岡は悔やむ。36歳のキャリア豊富な彼が冷静さを失っていたのである。続く11ラウンドは取ったが、最終ラウンドは、右のクリーンヒットを浴びるなどして、ジャッジの2人は王者につけた。
ただダウンを取った10ラウンドと続く11ラウンドしか井岡を支持しなかった米国人ロバート・ホイル氏の「117-110」の採点は事情聴取ものの疑惑の採点だろう。米専門サイト「ボクシングニュース24」は、「井岡を倒すが、大差での判定がソーシャルメディアに火をつける」との見出しを取った記事の中で、米SNSで「差がつきすぎている」「偏見だ」との批判の声が殺到したことを伝えた。
マルティネスの試合後のインタビューが、10分を超えた頃、そのくちびるがわなわなと震え、膝の上で握った拳もぶるぶると震え始めた。
「寒気がするんだ。もう終わりにしてくれ」
インタビューを途中で打ち切り、立ち上がった王者は、腹のあたりを痛そうに抑えた。井岡は王者をグロッキー寸前まで痛めつけていたのだ。
井岡にも「前回よりもクリーンヒットはそんなにもらっていなかった。熱くなりすぎたところもあったが、やってきたことを出した感はあった。前回みたいに見栄えが悪く、前で我慢をして体を寄せられた場面も少なかった。的確性でいえば、うまく外せていた」との手応えもあった。
だが、その見栄えでは明らかに劣っていた。ボディブローはポイントにつながりにくいWBAの傾向もある。井岡の負けを否定することは難しい。
試合終了直後に心ないファンからペットボトルがリングへ投げ込まれ、「何か飛んできた! 誰だよ飛ばしたやつ…コノヤロウ。ふざけんなよマジで」と解説を務めたABEMAの中継で、激怒した元WBA世界スーパーフェザー級スーパー王者の内山高志氏の自己判定も「111―116」でマルティネス。
「ダウンを取った終盤の追い上げも間に合わなかった」との意見だ。
「中盤からボディが当たっていた。疲れていたマルティネスもきつかったと思う。KO勝ちになってもおかしくなかった。でも難しい。井岡には一撃はなく、相手を利用してカウンターを狙うタイプなんでね。お互いが考えながらやった。井岡的には倒す考えでいたのかもしれない。打ち合いでがら空きになると語っていた左ボディを狙って、効いたのも何発もあったが、そこまでヒットはしなかった。相手もうまかった。ジャブの差し合いもうまかった」