
「バンタム級は限界」中谷潤人が「非情だが勝つために」勇敢なIBF王者を“病院送り”にしてベルト統一も来年5月に井上尚弥とのスーパーマッチを計画する大橋会長は問題点を指摘
プロボクシングのバンタム級2団体統一戦が8日、有明コロシアムで行われ、WBC世界同級王者、中谷潤人(27、M.T)が6回TKOでIBF世界同級王者、西田凌佑(28、六島)を下して2団体統一に成功した。6回終了時点で西田が右肩の脱臼で棄権、右目もふさがり病院へ搬送された。中谷はリングサイドにいたスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(32、大橋)に「もうすぐ行くので待っててください」と呼びかけた。中谷はベルトの返上を明言せず、バンタム級のさらなる統一戦の可能性も示唆したが、井上陣営の大橋秀行会長(60)は、「バンタム級は限界。パンチ力はあったがスピードはなかった」と、来年5月の東京ドームで計画されているビッグマッチに向けて、スーパーバンタム級への転級を勧めた。
西田は右肩を脱臼して無念の棄権

突然の幕切れに超満員の有明コロシアムがざわついた。
7ラウンドの開始前にセコンドアウトの笛が鳴ったが、武市トレーナーは、リング内に残ったままで、西田は青コーナーのイスから立たなかった。陣営が棄権の意思を伝え、福地レフェリーが両手を横にふって中谷のTKO勝利を宣告した。もうその右目が完全にふさがっていたが、枝川孝会長が、自らの右肩あたりを触って肩の脱臼で試合続行不可能になったことを示した。
「ダメージを与えていると受け取れていた。そこまで長くならない感覚を持てていた」
中谷にとっては突然の幕切れではなかった。
無傷の31連勝。バンタム級に転級してから5戦連続KO決着をしてみせたビッグバンは、両手をあげたまま横にステップしながら四方のファンに歓喜を届けた。
西田がリングを降りるとき、その勇気と大健闘を称える大きな拍手が送られた。
だが、西田のダメージがひどく記者会見はキャンセル。車いすで病院に緊急搬送された。枝川会長によると「肩関節脱臼後の腱盤損傷の疑い」との診断が下された。
日本ボクシングで4度目となる日本人同士の統一戦は中谷のサプライズから始まった。
1ラウンドのゴングが鳴ると同時に中谷がまさかの猛ラッシュを仕掛けたのである。体を沈めて右のパンチからプレスをかけると、思い切り左フック、右アッパーと叩き込み、さらに左から右のダブルとたたみかけ、いきなりパワーマックスの勝負に来たのだ。
「(西田が)何をしてくるのかという不気味さはあった。色んなことを想定し、こうされたら嫌を毎回想定する。それを断ちきっていくために、どういうやりかたをするか。西田選手は距離感が優れている部分。そこでボクシングをするより、1ラウンド目から崩してやろう、狂わせてやろうと。そういうひらめき、チームの発想が楽しい。楽しい方をやった」
コンビを組む名参謀のルディ・ヘルナンデストレーナーのアイデアを実行した。
中谷は、サウスポーが苦手との分析があり、アジャストに時間がかかるとの見方があった。そこに西田陣営がつけこんでくるのは想定できた。だが、距離を潰して、殴り合いにいけば、それらのネガティブ要素は消え、西田の長所を消すことになる。アッパーも効果的だった。
「ダメージを与えていくのが第一の目的。結果としてサプライズを与えた」
村野会長が「1ラウンドは相手が元気でリスクはある」という危険と背中合わせの作戦でもあったが、西田には一発で倒すパンチ力がないとの見立てもあったのだろう。その戦略はズバリ的中した。距離がつまると、クリンチワークで腕をロックして、そこでの反撃を封じ込んだ。
加えて「エンターテインメント性。みなさんをあっと驚かすことも大事。まわりも西田選手もびっくりさせる」とのプラスアルファの狙いもあった。そこには、リングサイドにいた井上尚弥とのスーパーマッチを意識したものだったに違いない。
だが、耐えに耐えた西田は、一方的にやられていたわけではなかった。
そのラウンドの終盤に、試合前「そこが自分の武器」とも語っていた左ボディのカウンターで反撃を企てていた。3ラウンドには、接近戦で、執拗にボディを浴びせて中谷を下がらせ、左ストレートを立て続けにお見舞いした。ジャッジの3人が西田を支持。4ラウンドも続けて、攻め込んで、このラウンドもジャッジの2人が西田の「10―9」とした。