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久保建英は待望の代表初ゴールにも表情を崩さなかった(写真:森田直樹/アフロスポーツ)
久保建英は待望の代表初ゴールにも表情を崩さなかった(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

なぜ久保建英は待望の代表初ゴールにも笑わなかったのか…W杯当落線上にいる天才の初得点の意義

 

日本代表のMF久保建英(21、マジョルカ)が待望のA代表初ゴールを決めた。10日にノエビアスタジアム神戸で行われたガーナ代表との国際親善試合の後半28分に、FW三笘薫(25、ユニオン・サンジロワーズ)の左サイドからの折り返しに、ゴール中央で利き足の左足を合わせた。デビューから3年、出場17試合目でようやく生まれた一発に「とりあえずゼロと言われることはなくなりました」と声を弾ませた。試合は4-1で日本が快勝した。

「これまでは代表で、ああいうところでテンパってしまう自分がいたんですけど」

 もっと感情を爆発させるかと思っていた。2019年6月9日のエルサルバドル代表戦でデビューしてから3年と1日。出場17試合目と、予想をはるかに上回る難産となったA代表初ゴールを決めた久保はしかし、ほとんど無表情だった。

 快勝の余韻が残る試合後のオンライン会見。久保が意外な舞台裏を明かした。

「みんなが喜んでくれたから、逆に自分が喜ぶタイミングを見失ってしまった感じです。パスをくれた三笘選手のところには最初に行こうと思い、その後に何をしようか迷っていたんですけど、みんなが来てくれたのが嬉しくてそこで満足しました」

 待望の瞬間は日本が2-1でガーナをリードしていた後半28分に訪れた。  得意のドリブルで左サイドを突破し、ペナルティーエリア内へ侵入した三笘が2人をかわした直後に体を反転させ、右足でマイナス方向へ緩めのパスを出した。 ガーナの守備陣はゴール正面へ詰めていたFW上田綺世(23、鹿島アントラーズ)、ファーサイドのFW伊東純也(29、ヘンク)へのクロスを警戒していた。必然的にペナルティースポットのあたりには大きなスペースが生まれていた。

「三笘選手も『中に誰か味方がいれば』という感覚で、おそらくは中を見ないで軽く蹴っていた。そのタッチで、あそこにこぼれてくる予感がしたので」

 伊東の後方にポジションを取っていた久保が、閃きに導かれながら走るコースを左側へ旋回させてゴール中央へ走り込んでくる。ノーマークの状態から左足で放たれた一撃はガーナ選手の体をかすめ、コースを変えてゴールネットを揺らした。

「これまでは特に代表で、ああいうところでテンパってしまう自分がいたんですけど。今日は珍しく何も考えなかった。自分でも(蹴った瞬間に)入った、と思いました」

 ゴールまでの経緯を振り返った久保は、試合後のフラッシュインタビューで「いやぁ、長かったですね。このまま一生、入らないんじゃないかと思うときもありました」と第一声を発している。本心だったとオンライン会見で認めた。

「代表に関しては、本当にそう思っていました。周りの選手がゴールを決めるたびに『自分がそのポジションにいたらよかった』とか、僕のシュートがブロックされるたびに『何で自分だけいつも』と思うこともあったので」

 3試合を終えた6月シリーズを振り返れば、4-1で快勝した2日のパラグアイ代表戦は後半26分から札幌ドームのピッチに立ったが、シュートを放つことすらできなかった。6日のブラジル代表戦は、国立競技場のベンチで0-1の敗戦を見届けた。

「何で試合に出したくれないんだよと思いましたし、正直、めちゃくちゃキツかったですね。僕が出たらもっとやれていたと思いましたけど、試合に出てない僕がそれを言ったところで、ただの負け惜しみにしかならないので」   

 パラグアイ戦とブラジル戦を通じて、11月に開幕するカタールワールドカップを見すえた上での、森保ジャパンにおける立ち位置を突きつけられた。  昨年10月から主戦システムになった4-3-3のなかで、右ウイングの序列は伊東、堂安律(23、PSV)に次ぐ3番手に下がった。そして、主力の守田英正(27、サンタ・クララ)と田中碧(23、フォルトゥナ・デュッセルドルフ)が主力を担ってきたインサイドハーフでは、鎌田大地(25、アイントラハト・フランクフルト)と原口元気(31、ウニオン・ベルリン)がゴールやアシストという結果を残した。

「いろいろと考えるところがあって、上手く試合に入れなかった」

 特にパラグアイ戦をこう振り返った久保は、代表での居場所がなくなると焦燥感を募らせながらプレーし、結果として自分のプレーに集中できない悪循環に陥っていた。

 21回目の誕生日だった4日。宿泊しているホテルの部屋で「ちょっといろいろと考えました」と明かした久保は、実はひと筋の光明を見いだしていた。 「いろいろと吹っ切れて、そこからは練習でも自分がやれることをやっていこう、といった具合に見違えるほど軽くなったと感じていて。プレーも同じで、今日も軽くプレーできていた。21歳になって、自分のなかで何かがいい方向に変わったのかなと」

 いったい何が軽くなったのだろうか。

 

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