WBA世界スーパーフライ級王座を獲得した井岡一翔の試合前にはドーピングの大麻検出問題がクローズアップされた(写真・山口裕朗)
WBA世界スーパーフライ級王座を獲得した井岡一翔の試合前にはドーピングの大麻検出問題がクローズアップされた(写真・山口裕朗)

“ノーモア井岡問題”の新ドーピングルールは制定されるのか?

 

 小林会長は「ボクシングは公平だね、いいスポーツだねと、子供たちにも魅力を感じてもらわねばならない。だが、陽性が出たらダメなんですよ。そこがすべて。うちの岩佐(亮佑)も、井上尚弥選手も、僕も現役時代に4回やったけれど出ていない。数値の問題じゃない。よくないことはよくない」と、WADAの規定に準拠せず、JBC独自のルールとして、大麻成分が検出された場合、「微量であろうが即アウト」という厳しい規定を定めるべきだと主張するのだ。
 ではJBCはどう考えているのか。
 萩原実理事長は、「我々は、現段階では規定を持っていないのでペナルティを科すためには基準値を設けなければならなかった。そのため国内の111のスポーツ団体やNPB(日本プロ野球機構)も基準に使っているWADAの基準に準拠したが、協会さんの意見に納得すれば、それが新ルールとなる可能性もある。今後は、協会さんと話し合いながら、それが適正かどうかを考えていきたい」との姿勢を明かした。
 海外ではプロボクシングはもとより、MLB、NBA、NFLなどの米4大スポーツでも閾値がかなり高く設定されており、そもそも、大麻をドーピングの禁止項目から外している団体もあり、大麻成分が検出されてもほとんどのケースでは陰性と判断されて発表もされない。またJADAは、その数値さえ明らかにしておらず、WADA同様、かなり高い設定値であると推測されている。
 世界基準に照らし合わせれば、今回の井岡のケースは陰性で、検出された事実は発表さえされなかっただろう。今後、その世界基準に沿ったルールを制定するのならば、微量の大麻使用は認められることにもなる。
 一方で、日本では大麻を所持している場合のみ逮捕され、使用したこと自体は、処罰の対象とならないが、使用も処罰の対象にしようとする動きがあり、より厳しく取り締まる方向へ法改正が検討されている状況にある。
 日本の社会性を考えると、協会サイドが要望するような「1でも出たら認めない」という独自ルールを定める可能性は否定できない。そうなれば、井岡サイドが釈然としなかった今回のような問題は起きないだろう。
 ノーモア井岡問題のルール制定と言っていい。
 JBCが井岡のドーピング検査で大麻成分が検出された事実を公表した際に「当法人は、ドーピング行為に反対し、公正なボクシングを推進しています。また、当法人は、青少年の健全な育成を支援しており、日本における大麻などの違法な薬物の使用は一切認めていません。井岡選手のルール第 97 条違反以外の当法人の各種規程の違反を理由とする処分の可能性については、当法人で検討中です」との一文を加えたのは、日本の社会性を考慮してのものだった。
 方向性としては協会サイドの申し出に沿う形で進みそうだが、もし「大麻は微量でも出た時点でアウト」の独自ルールを定める場合には問題もある。
 世界戦で海外ボクサーに、その規定をあてはめて処分を下すことはできず、タトゥーをした海外ボクサーの試合が黙認されているのと同様、厳密にいえば、ドーピング検査はフェアではなくなる。
 果たしてJBCはどんな結論を出すのだろうか。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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