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井上浩樹のパンチを浴びてイスモリロフが顔をゆがめた(写真・山口裕朗)
井上浩樹のパンチを浴びてイスモリロフが顔をゆがめた(写真・山口裕朗)

「気持ちを切らずに相手の心を折った」井上尚弥が激賞した“いとこ”井上浩樹の劇的逆転TKOでのWBOアジア王座奪取

 大橋会長は、あえて強豪をぶつけた。
「これを越えられないようじゃ前と一緒」
 途中、大劣勢の姿を見て「もう尚弥のサポートに専念かな」と事実上の引退勧告を突きつけるつもりでいた。だが井上浩樹は確かに生まれ変わっていた。
「気持ちを出した。これから変われるんじゃないか」
 
 試合後、井上尚弥に「ひやひやしたよ」と打ち明けられた井上浩樹は、「でも面白かったでしょう?」と返したという。
「凄くタフな試合でした。最後は気持ちの勝負でしたが、浩樹の気持ちが最後まで切れずに相手の心を折ったと思います。また浩樹のもとにベルトが帰ってきたことが何より良かった」
 井上尚弥は、そう言って、いとこの激闘勝利を称えた。

 7月25日に井上尚弥がWBC&WBO世界スーパーバンタム級王者のスティーブン・フルトン(米国)に挑んだビッグマッチに向けて、その体格差をシュミレーションするために仮想フルトン役を務めたのが、身長が1m75ある井上浩樹だった。 
 ジムへ向かう電車の中でフルトンの動画をチェックして、構えから攻守の癖やパターンまで、その動きをフルコピー。井上尚弥と6ラウンドでガチスパーをした。
「体重差もあるし試合前にケガをさせたらと思うと怖くて気持ちが入りきれなかった」の遠慮と、フルトンが攻撃する際のバランスやステップなどを真似るのが難しかったため、つい手数が減ると「本気で殺しにきていた」という井上尚弥から「もっと手を出してこいよ」と怒られた。
 しかし、バックステップも含めたフルトンのディフェンスは完璧にコピーして「パンチはほとんどもらわなかった」という。
 イスモリロフは、右構えのオーソドックススタイルからスタートしたが、3ラウンドにはサウスポースタイルにスイッチ。4ラウンドには、またオーソドックスに戻すなど、スイッチを繰り返して井上浩樹を幻惑した。右構えの際には引いてカウンター、サウスポーでは出てきてプレスをかける。飛び込んでくるパンチもあり、ウズベキスタン特有のパンチの軌道をなかなか把握できなかった。
「やりづらかった。いちいち考えすぎてペースをつかめなかった」
 それでも6ラウンドからは井上浩樹はステップワークを使い、一度は、失いかけたペースを取り戻した。この対応力や、10ラウンドの戦いの中で見せた引き出しの多さは仮想フルトンを務めた効果だったのかもしれない。
「ダメなところをもっと学習して今後に挑みたい」
 スーパーライト級の世界は、激戦区であり、おいそれと世界戦をマッチメイクできるような階級ではない。それでも井上浩樹は、最終目標を世界に置き、その前には3年前に一度、敗れた永田とのリベンジマッチを望んでいる。
「かっこなんかつけないで、こういう試合をする方がいい。見てくれる人が面白いと喜んでもらう試合をしていきたい」
 彼にとってボクサー人生の分岐点と言える夜になった。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

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