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18年ぶりの優勝へのカウントダウンが始まった阪神の岡田監督の何がどう変わったのか(写真・黒田史夫)
18年ぶりの優勝へのカウントダウンが始まった阪神の岡田監督の何がどう変わったのか(写真・黒田史夫)

なぜ“アレ”へ秒読み段階に入った阪神の岡田監督はベンチでよく笑うのか…10年の充電期間を“肥やし”にした指揮官の変化

 首位の阪神がマジックを「5」に減らし、いよいよ“アレ”へのカウントダウンが始まった。オリックス監督を最後に10年間の充電期間を経て阪神の監督に復帰した岡田彰布監督(65)の指揮ぶりも18年前の優勝時に比べて大きく変化した。コンバートからスタートした守備力の強化、休養を与えながら回したブルペン陣、村上頌樹(25)、大竹耕太郎(27)らの10勝投手が出現する豊富な先発陣を作り、打線では四球を重要視するなどいくつかの戦術の変化もあるが、一番の変化はベンチで自然に笑い「無駄なプレッシャーをかけず“普通”にやる野球」だ。今日から甲子園で巨人3連戦。マジック対象チームの敗戦という条件つきではあるが、最短のXデーは14日となっている。

 チームに不必要なプレッシャーをかけない

 

 2023年の岡田監督はベンチでよく笑う。
 立ち上がって万歳をしたり、「よっしゃあ!」と歓喜の声を発することもある。ただし喜怒哀楽の「怒哀」はない。想定外のミスや失点があっても怒らず苦笑いを浮かべるだけ。
――前回と違って今年の監督はベンチでよく笑いますね?
「何いうてんのん。普通にやってるだけやんか」
 岡田監督が定番のように繰り返す“普通”を自らの指揮ぶりにも当てはめた。

 本来は、究極のマイナス思考である。最悪のケースを考えて、そこからすべてのプランを組み立てる。だからベンチで笑っている暇があれば、次の一手を考えていた。「指揮官たるもの一喜一憂すべきではない」との考えも根底にあった。前回の監督時に、これほどベンチで白い歯を見せる岡田監督を見たことがない。
 そして3連戦を前に「ひとつ勝てばええ」と腹の中では思い、コーチ陣には漏らすことはあっても、決してメディアを通じて公言しなかった。
「ひとつ勝てばええ、という考えで試合に臨んだら3つ負ける。指揮官が決して口にすべき言葉ではない」
 そんな持論を聞いたこともあった。
 プロ野球は80勝すれば63敗する長丁場である。
「全試合勝てへんねんで」
 負けゲームをいかに次へ生かすかが重要で、岡田監督は、それを織り込んで、ゲームプランを立てるが、試合前に油断を招くような言葉は絶対に口にしてこなかった。だが、今シーズンの岡田監督は、そのタブーを解禁した。
 夏のロード前には、「貯金なんか全然考えてない。1週間に4勝2敗とか計算していない」とコメント。ペナントレース中に「明日は別に勝たんでもええ」と発言したこともあった。そして今回の2位広島との直接対決の3連戦の前には「3連敗だけはせえへんかったらええ」とコメントしたのだ。試合前にすでに8ゲーム差に開いていたという状況もあったのだが、これはこれまでタブーとしていた「ひとつ勝てばええ」と同じ意義の言葉。結果、1勝どころか3連勝で引導を渡しマジックを「5」に減らしたのである。
 ベンチで笑い「楽しんだらええやん」と言う。岡田監督は大きく変わった。
 その変化の理由と狙いは何か?
 ひとことでいえば「無駄なプレッシャーをかけず“普通”にやる野球」である。
 甲子園を制した慶応高の「エンジョイベースボール」ともまた違う。プレッシャーの中での試合をした経験がまだ少ない若手の力を最大限に引き出してやるための岡田流の新たなアプローチと言っていい。
 岡田監督が、その方針を決めた裏には2010年から3年間指揮を執ったオリックス監督時代の苦い経験がある。

 

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