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岡山学芸館の2年生”守護神”の平塚仁がビッグセーブ。チームを初の決勝へ導く(写真:松尾/アフロスポーツ)
岡山学芸館の2年生”守護神”の平塚仁がビッグセーブ。チームを初の決勝へ導く(写真:松尾/アフロスポーツ)

なぜ岡山学芸館は”最強FW”福田師王を擁する神村学園を破り初の決勝進出を決めたのか…”個の能力”に組織力で対抗

 このとき、2年生守護神の平塚は自らを奮い立たせていた。
「結果として3失点してしまったし、そのなかで3年生がゴールを決めて同点にしてくれた。ここでやられたらダメだと、自分が絶対に止めるんだと」
 国立行きを決めてからプロゴルファーの父、哲二さん(51)へ電話を入れた。2003年のゴルフ日本シリーズJTカップなどツアー6勝をあげ、同年の賞金ランキングで2位に入った実績を持つ父との会話のなかで、何度も聞かされてきた金言を思い出した。
「父からは『しんどい顔を見せるな』とよく言われました。メンタル的に苦しくても堂々と、自分は余裕だという表情を見せていれば、相手は『こいつ、まだやれるのか』と思うと」
 すべてのスポーツに通じる駆け引きを、福田との間で繰り広げた。自信満々の表情を見せつけながら、ボールをセットする福田の一挙手一投足を注視。事前に入手していた性格や、終わったばかりの90分間を通じて得た最新の情報もインプットした。
 弾き出された答えは「自分から見て左側に蹴ってくる」だった。同時に「真ん中もありうる」と幅を持たせ、左へダイブしつつも、助走から右足をヒットさせる瞬間まで見極める作業も自らに課した。果たして、福田はど真ん中へ思い切り蹴ってきた。
 無我夢中だったからか。平塚は「多分、右足だったと思います」と、実質的に勝負を決めた瞬間に関してはうろ覚えだった。それでも強烈な一撃を足で弾き返し、次の瞬間に福田に下を向かせ、4番手の井上につなげた会心のビッグセーブを笑顔で振り返った。
「性格的にも助走を見ても力強く蹴ってくると思ったので、最後までボールを見て体のどこかで、足に当てるのもありだという考えで跳んだのがよかった」
 2006年度大会の準決勝を振り返れば、初出場だった神村学園を1-0で振り切ったのが実は岡山県代表の作陽だった。しかし、ともに初優勝をかけた決勝で、作陽は盛岡商(岩手)の前に1-2と逆転負けを喫し、無念の涙を流している。
 再び国立競技場で9日に対峙するのも、5度目の出場で初優勝を狙う東山。しかし、同じ歴史はもう繰り返させない。チーム全員の思いを平塚が代弁した。
「泣きながら喜んでいる3年生を見て、自分もすごく嬉しかった。その3年生たちとまた一緒に試合ができる。次こそは無失点に抑えて必ず優勝したい」
 フィールドプレーヤーの全員がひたむきに走り続け、守備だけでなく攻撃でも数的優位を作りにいく。そして、敵陣では自由な発想も織り交ぜてゴールを狙う。一戦ごとに自信を膨らませ、勢いに変えてきた岡山学芸館は初体験の国立競技場でも等身大のサッカーを披露。1998年創部のチームだけでなく、県勢初優勝という歴史を変える戦いへの挑戦権を得た。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

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