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世界一を奪回した侍ジャパン。MVPの大谷翔平が優勝トロフィーを掲げる(写真:AP/アフロ)
世界一を奪回した侍ジャパン。MVPの大谷翔平が優勝トロフィーを掲げる(写真:AP/アフロ)

なぜ侍ジャパンは世界一を奪回できたのか…栗山監督が成就させた「ハイブリッド・ベースボール」

 WBC決勝で日本が米国を3-2で下して14年ぶりの世界一を奪回した。1次ラウンドからの全勝Vは2013年大会のドミニカ共和国以来の快挙。大会MVPには決勝戦の9回に登板した二刀流スターのエンゼルスの大谷翔平(28)が選ばれたが、なぜ侍ジャパンは頂点に立てたのか。2013年大会に出場した日本代表の戦略コーチで現在BCリーグ新潟アルビレックス監督の橋上秀樹氏にWBCの日本の戦いを分析してもらった。

 トラウトを三振に取ったスライダーに集約されたもの

 

 野球の神様の配剤だったのか。
 9回にマウンドに上がった大谷の脳裏をよぎったのは最後のバッターとして同僚のマイク・トラウトとの夢対決が回ってくること。2人を凡退させると最高のクライマックスを演出できる。先頭の昨年首位打者、ジェフ・マクニール(メッツ)に四球を与え、その計画が泡と消えそうになったが、ムッキー・ベッツ(ドジャース)を二ゴロ併殺打に抑えて、トラウトと対戦することになったのである。
 フルカウントから決め球はスライダーだった。
 トラウトのバットが空を切ると、大谷はグラブと帽子を投げ捨てて雄叫びを挙げた。
「最高の形で(トラウトを)迎えることができて、最高の結果(三振)になったのでよかった」
 橋上氏は、このボールの選択に大谷の今大会の姿勢が集約されていたという。
「いち野球人としてはストレート勝負を求めたかったのかもしれない。だが、大谷は最も頼りになるスライダーというボールを選んだ。いかに勝ちに徹したかがよくわかる。準々決勝のイタリア戦では、シフトの裏をかくセーフティーバントを決めたが、彼の勝利へのこだわりが、求心力となり、チームを一丸にしたのだと思う」
 大谷は7番手だった。
 先発の今永昇太(横浜DeNA)が、2回一死から、ここまで4本塁打10打点と今大会絶好調のトレイ・ターナー(フィリーズ)に先制本塁打を浴びると、栗山監督は、この回で交代させた。2番手の戸郷翔征(巨人)が2イニング、5回からは、高橋宏斗(中日)、伊藤大海(日ハム)、大勢(巨人)と一人1イニングずつの小刻み継投を繰り出し、米国のスーパースター軍団に、ゼロ行進を余儀なくさせた。8回にはダルビッシュ有(パドレス)を送り、昨年46本塁打で本塁打王に輝いているカイル・シュワーバー(フィリーズ)に一発を浴びたが、リードを守りきった必勝リレー。
 橋上氏は、「日本のブルペンを含めた投手力の層の厚さと質の高さは世界に誇れるものだった。今回の米国は、球団の事情で投手陣に関してはベストメンバーを集められなかったのかもしれないが、間違いなく日本が上。栗山監督は、ここまでの戦いで公式球に適応できる投手とコンディションを見極めて信頼できる投手を注ぎ込んだ。7人も投げれば一人くらい調子の悪い投手が出てくるものだが、全員が素晴らしかった。球筋、球種の異なる多種多様な投手が、コロコロ変わると、さすがのオールスター軍団も対応できなかった」と、投手力が世界一を導いたとの見解を示した。。
「マイアミの湿度も滑る公式球を操るためにプラスしたと思う」と付け加えた。配球にも世界一の制球力に裏づけされた勇気が見えたという。
「メジャーリーガーに対しては、“手伸びゾーン”と言われる、外角への失投に最も気をつけなければならないが、そこで打ち損じさせるには、内角のボールが必要になる。ズラッと並ぶパワーヒッターを相手に、そこを突くことに勇気がいるが、中村は、内角を要求したし、全員が臆せずどんどん攻めた。その世界一の制球力に加えて球威でも堂々と渡りあった。トップレベルの打者と投手が対戦した場合、投手が有利になるのが野球のセオリーとしてある」

 

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