「負けてから強くなるのが辰吉やん」なぜ辰吉ジュニアは初のタイトル戦で衝撃の2回失神TKO負けを喫したのか…カリスマの父は再起を促すメッセージを送る
プロボクシングのOPBF東洋太平洋スーパーバンタム級タイトルマッチが12日、後楽園ホールで行われ、元WBC世界バンタム級王者、辰吉丈一郎(54)の次男である同級6位の寿以輝(28、大阪帝拳)が2ラウンド2分13秒、王者の中嶋一輝(31、大橋)の左フックで衝撃の失神TKO負けを喫した。医務室で意識を取り戻し大事には至らなかったが、実力差をまざまざと見せつけられた初黒星。父は「オレならリマッチする。負けてから強くなるのが辰吉やん」と“辰吉節”で再起を促した。
左フック一発でキャンバスに沈む
スローモーションのように崩れた。2ラウンドだ。王者が目でボディにフェイントをしてから放ったカミナリのような左フックが辰吉の顎を襲う。バタンと後頭部からキャンバスに落ちた辰吉はピクリとも動かない。
失神していた。
1225人と発表された超満員の後楽園ホールを異様な悲鳴と歓声が交錯する。
リングサイド。青コーナーの真下にいた母親のるみ夫人も意識が遠のき、夫で父の丈一郎の肩に寄りかかった。寿以輝の妻の優さんは、真っ青になり、2人の子供たちは泣き叫んだ。
担架が運びこまれ辰吉は医務室に運びこまれた。すぐに意識を取り戻したが、記憶は飛んでいて、付き添った父に「試合あったんか?」と尋ねたという。
「おまえが負けてん」
父に結果を知らされた寿以輝はスタッフの肩を借りて歩いて控室へ帰った。
父が状態を説明した。
「ああでもせんかったら立ちよる。失神できたから、それ以上ひどくならずに済んだ。後遺症はない。ダメージはないよ」
体にしびれや、吐き気の症状もなく、しばらくすると、吉井寛会長が「明日になったらケロっとしていると思う」と病院での緊急検査の必要もないことを明かすほど回復。家族や、心配でかけつけた寿以輝に自らが現役時代に使っていた入場テーマ曲を送った坂本博之らも胸をなでおろす。
勝った中嶋陣営の大橋秀行会長も衝撃の結末にショックを受けていた。
「複雑な気持ち。30年前から辰吉夫妻はジム開きや結婚式に来てくれた仲。もちろん勝って嬉しいのは当たり前だが、すごい終わり方だったんで」
それほど衝撃のフィナーレだった。
いつもの辰吉のボクシングができなかった。
中嶋の左を警戒するあまりプレスをかけられない。
「いきなりがんがん来ると思ってきた。接近戦で来ると想定していた」
中嶋はゴングと同時に仕掛けてくることを想定して準備もしていたが、辰吉は前に出ることができなかった。プロ18戦目にして初めて対峙するトップレベルの強打を持つ中嶋の“圧”を感じたのか。動きは堅かった。サウスポーの中嶋に対して、セオリ―通りに左に回りながら、右のボディストレートを打ち、なんとか懐に入ろうとするが入れない。左ジャブも少なかった。
1ラウンドから「普通にやれた。距離が取れた。冷静に落ち着いていれば、倒せるときに倒せると思った」という中嶋の左を被弾した。
その中嶋の左に対して、右を返すしたにも、一度だけ。緊張感のある戦いの中でイニシアティブを取っていたのは王者だった。
大橋会長は「やはりサウスポーが苦手なんだなとすぐにわかった」という。
見守った父は「サウスポーの向こうからしたらやりやすい。コーナーに追われて(パンチが)当たるところで右周りする。なんであんなことすんねん」と歯がゆかった。