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赤穂(左)が送ったレターが無効試合をカシメロKO勝ちに変更させる決め手に。レター送付の理由をプロモートした元WBO世界Sフェザー級王者の伊藤雅雪氏(中央)が明かす(写真・ボクシングモバイル)
赤穂(左)が送ったレターが無効試合をカシメロKO勝ちに変更させる決め手に。レター送付の理由をプロモートした元WBO世界Sフェザー級王者の伊藤雅雪氏(中央)が明かす(写真・ボクシングモバイル)

異例のカシメロ対赤穂の裁定変更は「KO負け」認める一通の手紙が決定打…なぜ赤穂は不利になる“応援レター”を送ったのか

プロボクシングの元WBO世界バンタム級王者、ジョンリール・カシメロ(33、フィリピン)と、WBO世界スーパーバンタム級7位の赤穂亮(36、横浜光)のノンタイトル10回戦(3日、韓国・仁川)の試合の裁定が、後頭部への偶然の反則パンチによる試合続行不可能となった「無効試合」から「カシメロのKO勝ち」に変更された異例の事態の経緯を示す文書が22日、公開された。「無効試合」の裁定を下した韓国ボクシングコミッション(KBM)にフィリピンのボクシングなど複数のスポーツ団体を統括するゲーム・アミューズメント委員会(GAB)が、異議を申し立てて再検証を求めていたが、赤穂側が「後頭部へのパンチ以外でのダメージがあった。私の負け」と送ったレターが決め手となり異例の裁定変更に至ったという。なぜ赤穂側は、わざわざ負けに裁定結果が変わる可能性のあったレターを送ったのか。元WBO世界スーパーフェザー級王者で、今回の試合をプロモートしたトレジャー・ボクシング・プロモーションの伊藤雅雪氏(31)に理由を聞いた。

 「赤穂さん自身も負けを認め『協力したい』ということだったので」

 異例の裁定変更の裏事情が見えてきた。
 無効試合の裁定結果へ異議を申し立てていたフィリピンのGABがKBMからの裁定変更の通知書を公表。それによるとKBMのジョン・ファン会長は、当初から「カシメロの後頭部への打撃が赤穂にダメージを与えたとは思えなかった。赤穂はカシメロの通常の攻撃ですでに大きなダメージを受けていた」と見ていたが「証拠がない」ためKBMルールに従い、無効試合の裁定を下した。
 その後、GABから再検証を求める正式な抗議があったため、2度、審議委員会を開き、議論したが、赤穂側からKBMに送られてきた一通のレターで事態が急変した。
「赤穂は『自分のKO負け』だと主張。横浜光ジムも赤穂のKO負けを認めた。赤穂は『ダメージはカシメロの後頭部への打撃の衝撃によるものではなかった』とし『一旦休んで再開しようとしたが、無理だった』とあきらめて自分のKO負けを認めた。後頭部への打撃で試合が続行不可能になったわけではないことを認めたことが(裁定変更への)証拠になった」と異例の裁定変更に踏み切った。
 日本ボクシングコミッション(JBC)管轄の試合であればありえない異例の判定変更だが、KBMは「ボクシングは、野球やサッカーなどの他のスポーツで適用されているビデオリーディングはないが、クリーンなスポーツを目指すのであれば、結果が変わるのは当然だ。競技ルールは、ケースバイケースで、すべての状況に正確に適用することはできない。ボクシングは何が起こるかは誰にもわからないのだ」と運営組織としては説得力に欠ける言葉を付け加えた。
 赤穂は8日に自身の公式ユーチューブを公開。
「結果はノーコンテストとなったが、自分の負け。自分の方が圧倒的にダメージをもらっている。アゴ(の骨)にもひびが入っている。KO負けと言われればそれまでだった」と素直な心境を明かしていたが、同じ内容のレターを送付したことになる。だが、「オレが勝った」と主張する手紙を送るのなら話はわかるが、「オレが負けた」といった主張をするのは前代未聞。なぜ自分らが不利となるレターを送ったのか。
 現役引退後にプロモーターへの転身を決め、これが興行第1弾となった伊藤氏は、その理由をこう説明した。
「フィリピン、カシメロサイドが裁定に納得していなかった。彼らに協力を依頼され、赤穂さん自身も負けを認め、『協力したい』ということだったので、僕らはプロモーターというフェアな立場として(レターを出すという)協力をした。フィリピンの国内でもスターであるカシメロが勝っている試合が無効試合となり、『あれはどうなんだ?』という抗議が起きていた。あの日の状況は、我々にも予測ができなかった。韓国のローカルルールの裁定に従ったが、誰がどうみても(赤穂の負け)というのがあった。僕もノーコンテストはない、カシメロの勝ちとなるべき試合かなと見ていた」
 カシメロの今回の赤穂戦のマネージャーだったホセ・デ・ラ・クルス氏、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)のマネージャーでもあるエギス・クリマス氏から、KBMへの異議申し立てをする際の“協力”を依頼され、赤穂の意向も汲んだ上で、より正確な裁定を求めて、異例の“カシメロ応援”のレターを送ることになったという。
 KBMは報告書に「潔く証言をした赤穂の勇気をリスペクトする」ともつづっていた。

 

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