井上尚弥を「ドキっとさせた」ダウン危機から拓真が那須川天心を3-0判定で返り討ち…1か月半前に目をカットする極秘アクシデントを乗り越えた…「これが最後。3度目対戦はない」
プロボクシングのWBC世界バンタム級タイトルマッチが27日、東京お台場のトヨタアリーナ東京で行われ、王者の井上拓真(30、大橋)がリベンジを狙った那須川天心(28、帝拳)に7回にダウンを奪われながらも3-0判定勝利した。実はトレーニング過程で目をカットし、実戦練習を約1週間できないピンチを乗り越えての返り討ちだった。拓真は天心との3度目対戦を否定。来年には、スーパーバンタム級の4団体統一王者の兄、井上尚弥(33、大橋)がスーパーマッチを行う予定の「リヤドシーン」日本大会で共演する可能性がある。

花道を引き揚げてきた井上尚弥に一言だけ聞いた。
「ドキっとしましたよ…でも…」
モンスターに心臓が縮まる思いをさせたのが7ラウンドのダウンシーンだ。
6ラウンドに続きアクションを強めた天心がキックボクサーのようなトリッキーな手とクビの動きをした。それを見て拓真がニヤッとした次の瞬間、ワンツーが飛んできた。顔面に被弾した拓真は背中からゴロンとダウンした。だが、冷静に兄や真吾トレーナーの声に耳をそば立てた。
「ダメージはない。フラッシュダウン。一瞬の気のゆるみ。許してしまった自分が悪かった」
まだ2分30秒も残っていた。
立ち上がった拓真は、あえてロープを背にガードを固めディフェンスに徹した。
「冷静に回復に務めた。ロープ際で休みながらディフェンスした。そこは得意なパターン。集中したらロープ際は絶対にもらわない。コツというより感覚」
天心はボディから攻め込んできた。小さなパンチを集めて隙を狙い、パンチに強弱もつけてきた。ボディは打たれたが、顔面への被弾はことごとく防いだ。逆にアゴをグローブで触り「打って来い!」と挑発までしてみせた。余裕を見せたのが間違いだったのか、また強烈な左を浴びて吹っ飛んだが、ロープをつかんでダウンを避けた。オフィシャルは、ビデオ映像によるインスタントリプレーでこれがダウンかどうかをチェックしたが、ノーダウンの判定。拓真は絶体絶命のピンチを逃げ切ってみせた。
そのインターバル。真吾トレーナーがハッパをかけた。
「倒し返すぐらいの気持ちでいけ!絶対に気を抜くな」
まだ足は完璧には動いていなかったが、8ラウンドに拓真は前へ出た。
「ポイントをピックアップしなきゃいけないことはわかっていた」
ワンツーから左ボデイ、ダブルの右フックの連打。手数の減った天心が、体を揺らして左の上下を放つも、そこに右ストレートを御見舞いした。
4ラウンド終了時点の公開採点では1人が「38-38」のドローだったが、2人が「40-36」「39―37」で拓真を支持していた。ダウンで失った2ポイントを補う貯金はあった。
8ラウンド終了時点の公開採点では1人が「76-75」で天心を支持したが、あとの2人は「77―74」で拓真を支持していた。
拓真はダウンショックから立ち直った。クリンチをうまく使って天心の得意の距離を潰し、2度目のダウンを狙って大振りになる天心のパンチを見切り、リターンブローを叩き込んだ。
井上尚弥が「ドキっとしましたよ。でも…」と、続けようとした言葉は、絶対にあきらめない拓真の精神力であり、危機を回避できるスキルだったのかもしれない。
3-0判定勝利。8回終了時点で天心を支持していたジャッジのスコアも114-113と逆転していた。
「ホッとしています。天心選手の成長も感じられ、決して楽な試合ではなかった。終始自分の距離で戦えたが、悪かったところもある。でも全体的には良かった。負けたくない気持ちで最後までチームで戦うことができた」
会見場に現れた拓真は、そう試合を振り返った。

