なぜ井上尚弥は中谷潤人の眼窩底骨折した左目を狙わなかったのか…「叩きのめそうという気持ちが100%ではなかった」武士道に通じるフェアプレー精神…大橋会長はフェザー級での再戦示唆
東京ドーム興行でスーパーバンタム級の4つのベルトの防衛に成功した井上尚弥(33、大橋)とWBCバンタム級王座のV1を成し遂げた拓真(28、同)が3日、横浜の大橋ジムで揃って一夜明け会見を行った。中谷潤人(28、M.T)を3-0で破った尚弥は11回に右アッパーで左目に眼窩底骨折を負わせながらもそこを攻めなかった理由を明かした。武士道に重なるフェアプレー精神。大橋秀行会長(61)は2人が、今後フェザー級に上がった際の再戦の可能性を示唆した。

「複雑な感情」
前夜は試合映像を見直してから眠った。睡眠時間は2時間半。サングラスで激戦の傷跡を隠したものの、レジェンド井岡一翔に完勝した拓真との一夜明け会見は終始笑いに包まれるなごやかなムードだった。
「戦う前から2人で話していた“絶対に2人で勝つぞ”という約束も果たせた。本当に今日 2人でここに出席してることを嬉しく思う」
実は、井上家でLeminoのPPVを購入したのは尚弥だけだったという衝撃のエピソードも明かされ、取材陣の大爆笑を誘った。
「自分のキャリアを通してポイント的にも内容的にも競った試合の中の 1つではあるので、そういった試合は自分にとって貴重な試合、またレベルアップをできた試合である」
ただ井上が気になったのはジャッジの2人は116-112で4ポイント差だったが1人が115-113と2ポイント差の僅差の判定をつけたこと。これは1ラウンドが入れ替わっていればドローの採点である。
「ただ2ポイント差は厳しい。どういうものをポイントに(中谷の)優勢として加えていったのかを知りたい。僕とセコンド(の自己採点の読み)がズレないような見直しも必要と感じた」
1ラウンドから4ラウンドまで中谷は中間距離でのカウンター戦法を取った。父の真吾トレーナーは、3つのパターンを想定していた。遠い距離で足を使ったアウトボクシング、中間距離でのカウンターボクシング、そして接近戦での奇襲。
「最もやりやすい」と考えていたのがその中間距離だった。
「プレッシャーをかけてきてるが入りたくても入れない。こっちのパンチは外して届くが相手のパンチは届かない。尚が1番得意としてる距離。スピードでも勝っていてこのままいけば安心だなと思った」
中谷は中谷で「井上選手は学ぶ力があるので学ばせない」と、井上に序盤にパンチを見極められ対応されることを回避する狙いがあったのだが、井上は「1から4 (ラウンド)はあの距離で戦ってポイントをピックアップできたかなっていう感覚があった」と言う。
中盤では「少し(プレッシャーを)強めながらそこもなんとなく取れたかな」との計算があり、陣営がラウンド間に伝える辛めの独自採点でも「ポイントは大丈夫」との報告があった。
中谷は8ラウンドになってようやくスイッチを入れて前に出てきた。攻撃的に手数も増やした。だが、ここまでの展開で「あのパンチでは倒されない」との手応えがあった井上は「それを攻撃で迎え打つのではなくて少し体力を温存しながら受けに回ってポイントをピックアップできればいいけど、できなければ別に(ポイントを)譲ってもいい」と、あえてラウンドを捨てた。
ジャッジの2人は、8、9、10の3ラウンドを中谷を支持している。エネルギーを温存した井上は11ラウンドで再スイッチを入れた。
そしてここで事件が起きる。井上の右アッパーがアゴを引いていた中谷の左目を直撃、破壊したのだ。スポーツ報知の報道によると、一夜明けの再検査で眼窩底骨折の診断を下されている。
中谷は左目をあけていれらなくなり、その目をかばうかのようにガードを高く掲げた。だが、井上はその左目を狙わなかった。追撃の手も緩めていたように見えた。
実際はどうだったのか?筆者は前日聞けなかった質問をぶつけた。
「(追撃を抑えたのは)少しありましたね。自分の中でも本当にこのまま叩きのめそうという気持ちが100%ではなかった。 ちょっと複雑な感情で(それは)初めてでしたね」
そしてこうも続けた。

