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国立に大観衆を集めた記念マッチで横浜F・マリノスが清水エスパルスを下してJリーグ通算500勝利をマーク。30年前のチーム1勝目に貢献した水沼貴史氏の長男・宏太氏が2アシストの活躍(資料写真・アフロスポーツ)
国立に大観衆を集めた記念マッチで横浜F・マリノスが清水エスパルスを下してJリーグ通算500勝利をマーク。30年前のチーム1勝目に貢献した水沼貴史氏の長男・宏太氏が2アシストの活躍(資料写真・アフロスポーツ)

横浜F・マリノスがJ通算500勝…1勝目を刻んだ父・水沼貴史氏から30年の時を超え長男・宏太が2アシスト活躍の運命ドラマ

鳥栖での4年間ではJ1リーグ戦で124試合に出場。充実した日々をすごしたが、2016シーズンに移ったFC東京ではチームが低迷するなかで構想から外れ、FC東京がU-23チームを参加させていたJ3リーグでプレーした時期もあった。

 しかし、翌2017シーズンに加わったセレッソ大阪で、右サイドのスペシャリストとしてだけでなく、常に明るく振る舞い、必要ならば忌憚なく周囲を叱咤する熱血キャラクターがマッチ。YBCルヴァンカップでキャリア初となるタイトルを獲得し、マリノスと対峙した天皇杯決勝では決勝ゴールをマーク。父が6度獲得したタイトルを手にした。

 迎えた2019シーズンのオフ。一度は別々の道を歩み、もう交わることはないだろうと覚悟を決めていたマリノスからオファーを受けた。リーグ戦を連覇するために必要だと口説かれ、実際にトリコロールカラーのユニフォームに袖を通してみると、心の奥底に半ば強引に封じ込めていたマリノスへの愛に気がついた。

 マリノスに復帰して2年目の昨シーズン。リーグ戦で36試合に出場するも、先発は一度だった水沼のもとへは複数のオファーが届いた。わずか677分のプレー時間で、リーグ2位の9つのアシストをマークした実力が高く評価されたからだ。

 しかし、水沼を動かすには至らなかった。マリノスもまた2022シーズンがクラブ創設30周年となる。父が活躍したクラブで歴史に関わる一人になりたい。強い思いは右ウイングのレギュラー奪取につながり、清水戦でプレー時間は900分に達した。

 父とは違う道を、強い信念のもとで歩んできた結果としてマリノスと再び邂逅。節目の通算500勝に2つのアシストで貢献できた胸中を、水沼はこう語った。

「狙ってできたことではないですし、これまで積み重ねてきたものが、こういう運命に導いてくれたというのがあるので。ここまでいろいろなことをあきらめずに、できることを全力でやると積み重ねてきた結果がこうなったと思っているので。正直言って嬉しいですけど、これからも変わらずに自分らしくプレーしていきたいと思っています」

 自分は水沼貴史の息子ではない、という思いも込めて、ユニフォームの背番号の下に入れる名前を『KOTA』と表記してきた。しかし、マリノスの歴史に水沼父子が深く関わっている、という証を込めて今シーズンから『MIZUNUMA』に変えた。

 しかし、J1通算500勝はもちろんゴールではない。節目の勝利を国立競技場で手にした偶然に運命を感じたからこそ、水沼は今シーズンの残り15試合を見つめる。

「一番上を目指して戦っているなかで、今日のような運命的なことがあった。それも踏まえて、チームの30周年である今年は必ず(優勝を)狙っていかなければいけないと、あらためて感じさせられる一日にもなった。まだまだ歴史の通過点にすぎないので、これからもっともっと積み上げていけるように、自分自身を高めていきたい」

 日産自動車時代に日本リーグを席巻した父は、開幕を32歳で迎えたリーグ戦ではタイトルを手にできないまま、1995シーズンの途中に現役を退いた。そして、再びマリノスの一員になった水沼も過去2シーズン、タイトルには無縁のままだ。 3連覇を狙った川崎フロンターレがやや失速し、通算勝利数を559に伸ばした鹿島が勝ち点3ポイント差で追いすがってくるJ1戦線。リーグ最多の41ゴールを叩き出す強力な攻撃陣にけん引されるマリノスの中心に、超一級のクロスに泥臭さ、献身さ、タフネスさ、そして父への憧憬の念を融合させ、華麗だった父とは異なるプレーを体現し続ける水沼がいる。

(文責・藤江直人/スポーツライター)

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