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最終ラウンドのゴングを聞くと井岡一翔は勝利を確信したかのように右手を上げた(写真・山口裕朗)
最終ラウンドのゴングを聞くと井岡一翔は勝利を確信したかのように右手を上げた(写真・山口裕朗)

なぜ井岡一翔は最強挑戦者を完璧に封じるリベンジV5に成功したのか…井上尚弥との比較論にも「自分にしかできないボクシング」を貫く美学

 これで世界戦20勝。日本歴代最多をまた更新し、米リング誌が「将来ボクシング殿堂入りする選手」と評する実績を積み上げてきた。

「(連続世界戦防衛の日本記録を持つ)あの具志堅(用高)さんもそうだったと思う。結果を出し続けることが大事。モチベーションが下がって負けたら、新聞の1面で“負けた“と書かれて終わり」

 勝ち続けることで見えるものがある。

「これが井岡スタイルの完成形?」 「今がピークなのか?」

 そう訊ねると井岡は笑って否定した。

「まだ強くなる。自分がこうやろうと考えて、すべてがうまくいくわけじゃない。そのときに成長できる。それを感じないとやっていけない。だって1回負けている相手に3年7か月後に勝っている。成長しているわけじゃないですか?」

 だから、この男は強い。

 一方で3戦連続の判定決着に否定的な声があることも理解している。

 日本のボクシング界を支えているビッグスリーのうち、元WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(帝拳)は“世界最強”ゲンナジー・ゴロフキンにTKO負けを喫したが、魂が震えるような壮絶な殴り合いで会場を総立ちにさせ、バンタム級の3団体統一王者の”モンスター”井上尚弥(大橋)は、ライバルのノニト・ドネアを2回TKOで葬り、世界へ衝撃を与えパウンド・フォー・パウンド1位に輝いた。彼らとの比較論がSNSなどで盛んに論じられていることを承知の上で、井岡は、こう持論を展開した

。 「人それぞれにスタイルがある。僕にしかできないことがある。賛否や好き嫌いもあると思う。記者の人もそうでしょう?みんな同じ記事ではなく、それぞれが違うから、それぞれの記事が読まれるのでしょう。それと一緒。僕にしかできないことを見せて、見せたいと思ってる景色で応援してくれる人の期待に答えたい」

 プロである限り他者の評価は無視できないが、命を削る努力を人と比べることに意味はない。かつて“KOダイナマイト”と呼ばれた信頼すべき人、内山高志氏が最大級の賛辞を送る。

「若いときよりも今の井岡が一番強いんじゃないか。いろんな意見はあるだろうけど、私のような玄人好みの試合。本当に面白い、最高の試合でした」

 井岡がニエテスとのリベンジ戦で見せたのは、そういう究極のボクシングだった。

   次はいよいよ悲願の統一戦である。

 第一目標は、IBFのベルトだ。昨年大晦日に一度は対戦が決まりながらも新型コロナ禍で流れ、その後、王座を失った前IBF同級王者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)と新王者のフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)が再戦の方向で動いているため、その勝者との統一戦に照準を絞る。だが、もしアンカハスとマルティネスの再戦がうまく運ばなかった場合、もう1人の元4階級制覇王者で、かつてパウンド・フォー・パウンド1位になったこともあるローマン・ゴンサレス(ニカラグア)が第2のターゲットとなる。

 現在、無冠ではあるが、知名度や評価は現役王者に劣っていない。名誉王座であるWBCダイヤモンド王座は持っており“統一戦”にもなる。

「大晦日に統一チャンピオンになっている姿をみなさんにお見せしたい。引き続き楽しみにしていて下さい」

 レジェンドへの道を歩み始めている4階級制覇王者は、リング上でとてもさわやかな口調で、そう公約した。

(文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)

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