廊下で怒号!今明かされる井上尚弥対中谷潤人の裏舞台にあった“もう一つの戦い”バンテージ問題…異例のグローブ着用前の再チェック…「ちゃんと見て来て下さいね」モンスターからの伝言
だがJBCルールに照らし合わせると、ねじりを入れる行為はアウトだ。JBCの立会人が巻き直しを命じると、エルナンデストレーナーは素直に応じた。今度は緩衝材を固定する際のガーゼにねじりを入れていなかった。
続いて左の拳を巻き始めた。佐久間トレーナーが早さにごまかされないように目を凝らすと、その左拳にもねじりを加えることはなかった。
中谷と顔見知りでもある佐久間トレーナーは「ごめんな。これが仕事なんで勘弁してな」と声をかけた。すると中谷は「大丈夫ですよ」と笑顔を浮かべて返した。
大橋陣営が中谷のバンテージに疑問を抱いたのは 昨年6月に行われたIBF世界バンタム級王者の西田凌佑(六島)との2団体統一戦でもバンテージが問題になっていたとの情報をつかんだからだ。試合の映像を見直すと西田の目の腫れ方にも違和感を覚えた。
佐久間トレーナーは「実際に緩衝材にねじりを入れた巻き方でパンチがどれだけ硬くなるかを実験してみたんです。自分の拳でその巻き方をして、グローブをつけて自分の顔面を殴ってみた」という。
すると「やっぱり硬い」との実験結果を得た。
佐久間トレーナーはそこまで入念に準備したのだ。
そしてバンテージチェックはこれだけで終わらなかった。
グローブを装着する際にもJBCと両陣営が立ち会うが、その際にもう一度、バンテージを触って硬いかどうかをチェックしたのだ。本来このチェックは行われないもの。だが、大橋陣営は、バンテージチェック後に変化があると怖いため、念には念を入れて ルールミーティングで、グローブを装着する際にもバンテージの硬さをチェックすることを要望していた。もちろん井上も同じようにチェックされるのだが、両陣営が了承したため、JBCが特別に許可した。これまで、日本の世界戦で、このような二重チェックが行われたことはなかったという。
2度目のチェックでもバンテージに問題がないことが確認された。
佐久間トレーナーは、中谷の控室へバンテージチェックに向かう際、井上から「ちゃんと見て来て下さいね」と声をかけられたことを明かした。
「中谷陣営からすれば、私が嫌われ役になっちゃいましたけど、間違った指摘はしていません。結果的に尚弥がダメージのあるクリーンヒットを浴びる場面はなかったわけですから、バンテージの問題は試合の勝ち負けには関係なかったのかもしれません。でも不安材料が何ひとつない状態で尚弥をリングに送り出すのが、私達トレーナーの仕事ですからね」
ひとりひとりがプロとしての仕事をやりきった。井上の3-0判定勝利は、そういうプロフェッショナルの力が結集した“チーム井上”全員でつかみとったものかもしれない。
(文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)

