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2013年のWBC準決勝で日本は井端氏と内川宇Jの重盗失敗が響きプエルトリコに敗れてV3を達成できなかった(写真・アフロ)
2013年のWBC準決勝で日本は井端氏と内川宇Jの重盗失敗が響きプエルトリコに敗れてV3を達成できなかった(写真・アフロ)

WBC準決勝で思い出す10年前「悪夢の重盗失敗」…元戦略コーチが語る真実とメキシコ戦に向けての教訓

いよいよ日本時間21日の午前8時からWBC準決勝の日本対メキシコが米国マイアミのローンデポ・パークで行われる。WBCの準決勝と言えば、悔しい記憶として刻まれているのが、3連覇を狙った2013年にプエルトリコに1-3で敗れた試合だ。8回に仕掛けた井端弘和氏(当時中日)と内川聖一氏(当時ソフトバンク)の重盗失敗がクローズアップされた。当時の戦略コーチだった現新潟アルビレックス監督の橋上秀樹氏が語る真実とは?

欠けていた意思疎通

「10年の時を超えて、因縁のプエルトリコが準決勝の相手であれば、また面白かったかもしれませんね。監督はあのモリーナでしたから。このメンバーでどれだけやれるか。メキシコになりましたが、難しい相手であることには違いありません」
 特別な感情を抱くのは元広島の山本浩二氏が指揮をとった2013年大会で戦略コーチを務めた橋上氏だ。V3を期待された山本ジャパンは、メジャーリーガーを1人も招集できずに大会に挑み、劣勢だった台湾戦などを勝ち抜き米国上陸は果たすが、準決勝のプエルトリコ戦に1-3で敗れた。
 先発の前田健太(当時広島、現ツインズ)が5回を1失点に抑えたが、打線が、前年韓国プロ野球でプレーしていたマリオ・サンティアゴを打ちあぐみゼロ行進。キャッチャーを務めたヤディエル・モリーナのテンポのいい“9秒投球術”の手玉に取られた。2番手の能見篤史(当時阪神)が、7回にバリバリのメジャーリーガーだったアレックス・リオスに2ランを浴びて0-3のまま8回を迎えた。ここで問題の重盗失敗が起きる。
 一死から1番打者の鳥谷敬(当時阪神)が三塁打で出塁、続く井端がタイムリーを放ち、まず1点を返した。さらに内川もヒットで続き、怒涛の3連打で一死一、二塁とした。押せ押せムードの中で、プエルトリコは、マウンドにJ・C・ロメロを送ってきた。
「事前にデータを集め映像も見せてミーティングをしていましたが、このロメロはクイックが1秒80もかかっていて、チームとして“この投手が来たらグリーンライトで走る”の共通認識を持っていました。野村克也さんは“1秒30以上なら行ける”の指針を示していましたが、1秒80なら、余裕でセーフです。ただ、修正せずに本当にそのままかどうかの確認はしたかったので、ベンチに三塁の高代コーチと一塁の緒方コーチが戻ってきたとき、“1球様子を見て、変わっていなければ2球目以降に行こう”と確認したことを覚えています」
 三塁コーチの高代延博氏も、ベンチで山本監督に「行かせますよ?」と確認を取り、「おお。行かせてくれ」の確認を取った。
 しかも、高代氏は二塁走者の井端に「2球目でな」とサインを送り、アイコンタクトで意思を確認したつもりでいたという。
 一塁コーチの緒方耕一氏は、わざわざ井端のところまで走り「グリーンライトが出るかもしれないから頭に入れておくように」と念を入れた。
 次は4番の阿部慎之助だったが、足でかき回して「一打同点」のシチュエーションを作ろうとしたのである。
 ただ、この時、井端は、緒方氏に二塁ベース上で「え?行くんですか?」と疑問を投げかけていた。このとき、井端は37歳。「足の遅い僕が?」の迷いがあったのかもしれない。
 ロメロの初球に阿部は空振りしたが、ロメロのクイックの秒数は1秒80と変わっていなかった。

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