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優勝の瞬間、大谷と中村が抱き合い、歓喜の輪が広がった(写真:UPI/アフロ)
優勝の瞬間、大谷と中村が抱き合い、歓喜の輪が広がった(写真:UPI/アフロ)

「甘めでどっしり」“世界一捕手”中村悠平が明かした9回のマウンド上会話から読み解く大谷翔平「魂の15球」の真実

 2008年の北京五輪で日本代表チームのチーフスコアラーを務めた三宅博氏は「その言葉に大谷の1イニングでどんなピッチングをしようとしていたのかが集約されていると思う。大谷はメジャーでも精密なコントロールで勝負するタイプの投手ではないが、コントロールよりも、思い切り腕を振って、ストライクゾーン内で、球威と変化球のキレでねじ伏せるという決意の表れだったんだと思う。だから、中村にストライクゾーンに、大きく構えて欲しいと要求したのだろう。実際に、彼の15球は、そういう内容のピッチングだった」と解説した。
 先頭は途中出場の左打者、ジェフ・マクニール(メッツ)だった。昨年打率.326でナ・リーグの首位打者を獲得した好打者。初球はスライダーでファウルを取ったが、2球目のスプリットが落ち過ぎてボールとなり、3球目の160キロのストレートは浮き、4球目のバックドアもボールとなった。カウント3-1から4球目のストレートがファウル。フルカウントとなって、大谷は初めて中村のサインにクビを振りスライダーを選択。再びファウルにされ、最後は159キロのストレートが低いと判定されて四球を与えることになった。
 米国ベンチは代走に昨年30盗塁のボビー・ウイットJr.(ロイヤルズ)を送りプレッシャーをかける。大谷は、続くムッキー・ベッツ(ドジャース)を打席に迎え、一塁手の岡本和真(巨人)にグラブで「牽制あるよ」のジェスチャーを示して、走者に釘を刺した。
 ベッツは、決勝前のロッカーで大谷がメンバーに「憧れてしまったら超えられない。今日1日だけは彼らへの憧れを捨てて勝つことだけ考えていきましょう」との名スピーチでポール・ゴールドシュミット(カージナルス)、トラウトと共に名前を出したドジャースのスター選手。
 初球は外角への157キロのストレートでストライクをとった。続けて中村は外角へ少しだけ体を寄せる。ほぼ同じコースに157キロのストレート。ベッツは明らかに押し込まれた。二ゴロ併殺打。最後の打者としてトラウトとの夢対決が実現することになったのである。
 初球は外角へのスライダ―がボールと判定された。2球目は160キロのストレート。コースは甘かったが、トラウトのバットは空を切った。思わず打席を外して深呼吸をした。
 3球目は160キロのストレートが外角にわずかに外れた。4球目は160キロのストレートが甘めに来たが、トラウトのバットは掠らなかった。カウント2-2となり、またトラウトは深呼吸した。
 三宅氏がこう解説する。
「驚くほど腕が振れていた。ど真ん中でも打ってみろ!というボール。先発で投げるときの大谷は、ここまでの全力投球はしていなかった。回転数が上がり、トラウトはボールの下を振っていた」
 5球目は指にかかり過ぎて外角低めへ外れ中村のミットは追いつかなかったが、球速は164キロをマークした。そして最後は140キロのスライダー。中村のサインに大谷は軽くうなずくと、外角へ鋭く横に曲がるスライダーにトラウトはスイングアウト。中村は、その場で両手を天に突き上げ、大谷は雄叫びを挙げながらグラブ、そして帽子を投げ捨てた。
 このスライダーは、メジャーで「スイーパー」と分類されているトレンドの変化球で横への動きが大きく落差は小さい“横スラ”である。フライボール革命のスイングが全盛のメジャーにおいて効果的とされる変化球だ。

 

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