なぜ西武・栗山巧の引退試合がシーズン最中の8月30日に行われたのか…職人が放った2152本目のヒットが伝えたかったもの
5番・林安可の代打で送り出されたのは中村剛也。2001年のドラフト2位で大阪桐蔭高校から入団した同期で、四半世紀に渡って切磋琢磨してきた中村を「連れ」と呼んできた栗山は、引退記者会見であらためて盟友の存在に言及した。
「一緒にドラフトで入って、気がつけば25年、同じユニフォームで一緒にプレーしている。当たり前にいる存在ではありますけど、特別なチームメイトでした。僕とは真逆でプレースタイルも違いますが、長くプレーしていくことによって『こういうのを取り入れることが僕にもできるな』とすごく参考にさせてもらったというか、刺激し合ったのかもしれないというか、本当に勉強になった存在でした」
その中村がショートゴロに倒れて静寂とともに迎えた通算9076打席目でファンを涙させる名場面を作った。代走に平沢大河を送られ、ベンチに下がったときから栗山がこらえていた涙腺は、4-1で快勝した余韻が残る引退セレモニーで限界に達した。
中村と球団OBの中島宏之、片岡保幸両氏に続いて自主トレをともにするなど、栗山が長く憧れてきた元メジャーリーガーの野茂英雄氏が花束贈呈役で登場。2021年に栗山が史上54人目、西武の生え抜きでは初めて通算2000本安打を達成したときには表彰式と名球会のブレザー授与式に登壇した野茂氏はこう語った。
「引退を撤回して欲しい」
次の瞬間、大粒の涙をこらえきれなくなった栗山は、思わず左手で顔をぬぐっている。そしてスピーチの最後を、こんな言葉で締めている。
「寂しさはありますけど、今ここにいる選手たちがこの寂しさを吹き飛ばすくらい大活躍して、日本シリーズに連れて行ってくれると思います。25年間ライオンズの栗山であり続けました。今もこれからもライオンズの栗山です」
一夜明けた31日からは、バットを振り込む日常に別れを告げる。引退記者会見で「明日以降のことは考えていません」と笑った栗山は、2008年から背負い続ける「1番」をどのような選手に引き継いで欲しいか、と尋ねられるとこう答えている。
「背番号云々ではなくて、まずは自分たちのプレーをしっかりやって欲しい。後輩たちにはもっと自分の良さが出ると思うので、まずは今の背番号が自分の番号なんだ、という選手に育って欲しい。自分の個性や良いところを伸ばしていって欲しいですね」
セレモニー後には、敗戦投手になった岸も加わった胴上げで3度宙を舞った。誰からも愛され、リスペクトの思いを抱かれたレジェンドが残した言葉は金言と化して、9月以降の正念場の戦いに臨む西武の後輩選手たちの背中を押していくはずだ。
(文責・藤江直人/スポーツライター)

