「死んでもいい覚悟」なぜ石井武志は井上尚弥に「俺の記録を抜いちゃったね」と驚かせた衝撃の65秒KOでWBA王座を奪取できたのか…綿密な陣営の作戦と「大橋ジムで一番の努力家」
プロボクシングのWBA世界ミニマム級王座決定戦が2日、横浜BUNTAIで行われ、世界圧挑戦となる同級1位の石井武志(26、大橋)が1ラウンド1分5秒、同級3位のウィルフレド・メンデス(29、プエルトリコ)にKO勝利。スーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(33、大橋)が持つ70秒の日本人世界戦最速KO記録を更新した。大橋秀行会長(61)、八重樫東トレーナー(43)と受け継がれてきたベルトを継承したキックボクシング出身の石井は「1ラウンド勝負」の陣営に指令に勇気をもって応え、「努力をすれば夢が叶うことを証明できてうれしい」と口にした。大橋会長は統一王者、複数階級制覇の将来的プランを明かした。

兄貴分の武居由樹が明かすキック出身の石井の強さの理由
衝撃の65秒だった。
石井はゴングと同時にガードを固めて突進した。左のボディブローがカウンターとなってメンデスの脇腹を破壊し、続けて右のフックがおでこあたりに炸裂すると、元世界王者は膝をついてしゃがみこんだ。
「凄くいいタイミングで入った。もしかしたら効いているのかな。もしかしたらこれ立ってこないかもな」
カウントが進む間に石井に確信があった。
まさかの10カウント。石井は吠えながらリングを駆け回りコーナーポストに登って雄叫びをあげた。
「人生で一番うれしい。最高です」
リングを降り、最前列にいた井上尚弥に挨拶にいくとこう声をかけられた。
「俺の記録を抜いちゃったね」
井上が2018年10月に横浜アリーナで元WBA世界バンタム級スーパー王者ファン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)を70秒で驚愕のワンツーで倒した日本人の世界戦最速KO記録を5秒更新したもの。
「そこで(記録を)知ったんですよ。なんかすごい嬉しかったっていう感じです」
このWBAのミニマム級のベルトは、1992年の大橋会長、2011年の八重樫トレーナーと、大橋ジムに脈々と受け継がれてきた伝統のベルトだった。大橋会長は「歴史をヒシヒシと感じる」と紹介。また大橋ジムでは、川嶋勝重、八重樫、井上尚弥、拓真、武居由樹に続く6人目の王者となり、大橋会長の出身母体のヨネクラジムの5人を超えることになった。偶然にも、この日、午後1時から後楽園ホールでは、ヨネクラジムの大先輩である故・ガッツ石松氏の「お別れの会」が執り行われ、大橋会長は、弔辞を読んだ。
「ガッツさんが降りてきたとしか思えない」
それほど奇跡的な世界奪取劇だったが、実は「1ラウンド勝負」を大橋会長が厳命していた。
「相手はハートが弱い。心が折れる場面もある。1ラウンドから強引にいかないと勝ち目がない」
八重樫トレーナーからは、前々日に「ここから先はあっという間。気がついたらリングの上だぞ。そこでびびるのか、強い自分を出せるのか」と、覚悟の強さを問われていた。
そして元3階級制覇王者で、メンデスと同じサウスポーのアウトボクサーであるWBC世界フライ級王者五十嵐俊幸に判定勝利した経験のある八重樫トレーナーは、その最初の3分間をどう戦うかのプランをこう授けていた。
「前に出て腹を打てと。そこしか打つところがないんでね。武居由樹とか、パワーオブドリームの選手は、一発強いパンチを打とうとする傾向があるんです。でもそれより手数だと。何発も腹を徹底的に打ってスタミナとやる気を削る。不器用なんで作戦はシンプル。まさか1ランドで終わるとは…」
石井自身もこう受け止めていた。
「12ラウンドを完走するつもりだったが、1 ラウンドからスタミナ考えずに行くぞと。あの近い距離でどんどん潰していくぞと」
初の世界戦。簡単に1ラウンド勝負などできない大舞台で石井は、その指令を実行し、さらに陣営のプランの上を行ったのだ。

