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WBCでの世界一奪回を狙う大谷翔平はイチローの意思を受け継いでいる(写真は2022年7月・AP/アフロ)
WBCでの世界一奪回を狙う大谷翔平はイチローの意思を受け継いでいる(写真は2022年7月・AP/アフロ)

大谷翔平がイチローから継承する“世界一”の意志…「WBCを野球界の未来のためにもっといい大会にするには勝つことが大事」

 試合には出場できなかったが、名古屋で行われた中日との強化試合の前には、打撃練習で規格外の柵越えを連発。スタンドをどよめかせた。京セラドームでも同じ。シーズン中は体調管理を優先し、ほとんど屋外での打撃練習は行わない。今回も移動が続き疲労があったはずだが、満員のファンに応えない選択肢はなかった。
 その京セラドームで行われた阪神との強化試合では、いきなり2発。東京ドームでもフルスイングにファンはうなり、ウォーミングアップのために姿を見せるだけで、球場がざわめいた。

 蘇ったのは、結果的に引退試合となった2019年のイチロー凱旋だ。あのときも、軽くイチローがジョギングするだけで、球場が一体になった。そんな一部の限られた選手だけが見られる景色。大谷の目にはどう映ったのか? 準々決勝のイタリア戦を前にした会見で聞くと、「僕自身も楽しみにしていたし、ファンがそれ以上に楽しみにしてくれていたと歓声を聞くと思うし、単純に僕もうれしい」と頬を緩めた。
 そんなファンとどんな時間を共有したいのか。大谷が日本でプレーしたのは、日本を離れてから初めて。球場に詰めかけたファンの中には、大谷を直接見るのが最初で最後、という人もいるはず。その問いに対して大谷は、「勝利で共有したいなと思っている」と明確な目標を口にした。
「この4試合はすべて勝てましたけど、ここからは負けたら終わりなので、勝って次の勝負に進んでいくというのが僕らにとってもうれしいし、ファンの方も望んでいると思う。勝つというのが、お互いが共有して一番うれしいことじゃないかな」

 その「勝つ」ということこそ、イチローが試みたようにWBCの価値を高め、次世代へ継承する上で最大の原動力となる。
 準決勝のメキシコ戦を前にした19日、そんなイチローの意志をどう継いでいきたいか? と聞くと、「確実に大会自体、進歩していると思いますし、回数を重ねるごとに権威ある大会に近づいていると思う」と手応えを口にしながらも、大谷は未完であることを強調した。

「まだまだ途中ですし、逆に言えば自分たちの力でもっともっといい大会にできる」

 そのために出来ることは?
「僕らはあと勝つだけだと思いますし、勝つことで日本のファンの人たちは喜んでくれる」

 アジアの野球の発展も視野にある。
「台湾とか韓国だったりとか、今回は残念ながら予選で負けてしまいましたけど、僕らが勝って優勝することによって、“次は自分たちも”という気持ちになるんじゃないかなと思う。まだまだ(大会が)大きくなる可能性を持っていると思うので、そのためにも勝ちっていうのが一番大事」

 準決勝のメキシコ戦。1点を追う9回裏、先頭の大谷は初球を捉えて打球を右中間へ運ぶと、一塁を蹴る手前でヘルメットを脱いだ。
「脱げそうだったんで、直すより脱いだほうがいいかな」
 もちろん、それだけが理由ではない。
「打球的に三塁を狙えるかなっていうところで」
 それは自重したが、二塁塁上で珍しく感情を顕にし、ダグアウトから飛び出した選手に向かって、「俺に続け」と言わんばかりに、両腕を振った。吉田正尚が冷静に四球を選ぶと、不振を極め、その日も3三振を喫していた村上宗隆が応えた。歓喜の輪の中で、大谷は何度も両手を突き上げた。
「こんなゲーム、人生の中でそうあることではない」

 いつか、こう語る選手が出てくるのではないか。
「印象としてはメキシコ戦のイメージがどうしても強い。僕自身が一番野球を楽しい時期にそういう試合を見せてもらって、いつか自分がここでプレーできたら面白いだろうなと一つの夢として持った」

 イチローから大谷へ。そして大谷から、未来の選手へ。
 継承がしかし、一つの作品として完成するのはイチローが果たせなかった米国戦に勝ったときか。
 間もなくプレーボールである。
(文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)

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